君のそばにいたい 〜『君が望むなら…』続編〜
 ある日の夜、私と会った彼はついに言う。

「アギー、僕の話は今までたくさんしたよ。だから次は僕に、君のことを聞かせてほしい。君の話せることだけでいい、ゆっくりで構わないから君の話が聞きたいんだ」

 いつかは来るかもしれないとは思っていたけれど、突然そう言われてはもちろん困る。

 私自身の話くらい、普通なら出来るはずのこと。
 けれど私はいま自分を捨て、身を隠している状態。

「…私の話なんて…一体、何を話したらいい…?」

 私は途方にくれたままそう返す。
 彼は少しの間考えている様子だったけれどすぐに提案した。

「…それではね、君の特技や好きなことを聞かせてくれるかい?」

 彼はゆっくりで構わないと言った。
 私はなるべく不自然にならないよう気をつけながら、少しずつ彼に自身のことを話し出した。

 両親に反抗していた時から多少の料理を覚えて出来るようになったこと。
 街よりも自然豊かで穏やかな風景が好きなこと。
 幼い頃は遊び盛りで、親に叱られながらも走り回って遊んでいたこと…

 もちろん上流階級の出だということは隠したまま。

 彼の表情は隠れてあまり見えないけれど、私の話を真剣に聞いてくれているのがたまに盗み見る相槌からも分かる。
 私も気付けば夢中で彼に話していた。


「…ありがとうアギー。また良かったら聞かせてほしい。僕は君のことが分かって幸せだよ」

 礼を言う彼の声が弾んでいる。

 …そんなに好きな相手のことを知るのは、嬉しいことなのだろうか…?
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