君のそばにいたい 〜『君が望むなら…』続編〜
 ところがある日の夜、仕事終わりに店から出ても彼はいなかった。
 いつも彼は私から見える場所で待ってくれていたのに。

 急な仕事でも入ったのだろうと自分を納得させようとしたけれど、自分が彼の普段の居場所をよく聞いていなかったという事実がよけいに寂しさを増す。
 彼のいない帰り道は、何だか自分が小さく思えた。


 細い路地に入り込み少しして、

「婆さん」

そう自分を呼ばれた気がして振り返ると、そこには見知らぬ男。

「…なんだい、あんた…」

 私はいぶかしがりながらそう返す。
 すると相手は楽しげに笑った。

「…俺にはわかるんだよなあ、お前が本当は良い女だってことが。よく見せてみろよ」

 言うが早いか男は瞬時に私の後ろを取り、力強く私を捕まえた。
 私の耳に、男の熱い吐息が掛かる。

「止めて…!!」

 どんなに体を強くよじっても男は私を離そうとせず、私の深く被っていたはずのフードはもう目繰り上がりそうになっている。

「助けてカイト…シード!!」

 私はあの時…屋敷を勝手に抜け出し身体を奪われたあの時に言えなかった、夫であるカイトの名と、いつもそばにいてくれるシードの名を思わず叫んだ。

 身震いとともに、あの時の恐怖を思い出す。

 あの時もいくらあっという間だったとはいえ、夫であるカイトにも触れさせていなかった身を…
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