まちがいさがし
「おはようございます。」
事務所につき、挨拶をしながら入るも緊急会議の為か皆んな不在だった。
隣にある会議室の方からザワザワと声がもれている。
「何よ。私にも聞く権利はあると思うのに。」
気になるが、既に光の机の上には破棄する書類がたんまりと積み上がっていた。
誰か出てくるまで待つか否か迷ったが、パートはやる事やってと言うワードを思い出し、不本意ながらもとりあえず書類をダンボールに詰め込み出す。
今日は一段と多い。
破棄するダンボールが6つにもなった。
それを何とか必死に台車に乗せ、廃棄庫まで向かう。
「····あっ!!!」
頭の中にふと昨日のことがよぎる。
(昨日いたあの人いるかなっ?!さすがにいないよね····?!!)
辺りをキョロキョロしながらゆっくり歩く。
いつもと変わらぬ風景に、僅かにではあるが安堵感を抱く。
「あ!!!パートさん!!!ちょっとここにいたのっ?!!」
後ろから昨晩電話してきたであろう女性職員の高木先輩が険しい顔で駆け寄る。
年齢的には40代くらいだろうか。
かなり急いでいたのか、ボサボサ気味の髪をグッと1つに結んだ感じがある。
「は、はいっ!なんでしょうか?!」
「事務所空けるなんて何してんのよっ!!勝手なことばかりして!本当に仕事が出来ないのねっ!」
突然何を言い出すかと思いきや、すごい剣幕で話し始める。
「っ?!あ、あの昨晩電話でみんなは緊急会議だから、私はやることをやる様に指示を受けたので、先に片付けた方がいいのかと思いまして···。すみません。」
「はぁ。片付けしか能がないの?
そんなこと誰も言ってないわよ。」
「····え?」
一瞬にして空気が凍る。
今まで部長の影でこんな意地悪な人がいることに気が付かなかった。
フンっと鼻で笑う声がした。
「アンタさ。コネなんかで入るから馬鹿なのよ。若くてチヤホヤされたいのか知らないけど、ここにはバカは必要ないの。さっさと辞めてよ。」
「っっ!!!」
人気がないことをいい事に、言いたい放題になっている。
(私がいつ若さを武器にしたのよっ!チヤホヤなんてもってのほかだし、そもそもそんなことされてないじゃないっ!!)
あまりの酷い発言にさすがに悔しさから涙が落ちる。
「ほらねっ!そうやって泣けば味方してくれるとか思ってるんでしょ?本当にいい迷惑だわ。」
「違います!そんなつもりじゃないです!
コネって言いますけど、親戚がここの上の方と友達でしたが、あくまで試験は平等に受けています!」
「知り合いなら0点でも入れてもらえるんじゃないの?アンタバカそうな顔してるもん!あははは!」
さすがに言い過ぎだろう。
涙を必死に拭くが後から後から絶え間なく出て来る。
「おねーさん。言い過ぎなんじゃない?」
「「っ?!!!」」
澄んだ綺麗な低音の声が酷い発言を止める。
突然の声に驚き振り返れば、いつの間にか音もなく光のすぐ後ろに立つ昨日の男がいた。
「なっ、何?びっくりした!!
あのね、私達の状況も知らずに勝手な発言しないでくれる?そもそもあなた誰よ?!」
明らかに動揺を隠しきれずにいるが、必死に虚勢を貼る高木。
「俺はここの者だよ。
状況も何もその言い方はないんじゃない?」
横目でチラリと見やると、座った目付きとニヤリと笑う表情がやはり何とも言いきれない危険な何かを感じさせる。
「っっ!!!!」
危険な何かを感じ取ったのは光だけではないようだ。
高木も同様に、その危険な感覚を察し何も言えずに押し黙る。
「あっ、あたしはねっ!!やることをきちんとやれって言う話を」
「あんたはどうなんだよ?」
「は?」
「あんたはどうなんだって聞いてんだよ。」
冷たく淡々と話す男と、それになんとか噛み付く高木のやり取りが目の前で行われている。
話す度に男は光の前へとゆっくり出て行き、高木の前へと距離を縮めて行く。
高木の表情は高身長の男の背中によって見えないが、男から放たれるとんでもない威圧感に後ずさっているのだけは分かる。
(こ、この人なんで私の味方になってくれてんの?どういう状況?!!!)
着いていけない様子に口を挟むことが出来ない。
「私はちゃんと仕事してるわよ!
コネで入った訳でもないし、日々評価されてここの事務員やってんのよ。」
「なんでお前みたいなレベルの奴がコネで入ったかどうかなんて分かるんだよ?」
「そ、それはっ!!有名な話よ!部長から聞いたの!」
「···え?部長が?」
思わず声が出る。
(部長は入社した時に、入社試験は平等に受けてること分かってるら安心しなさいって言ってくれてたのに·····。なんでそんな嘘を?)
「飲み会の時に部長がみんなの前で言ってたわよ!そもそも、上層部に知り合いがいる時点でコネ決定よっっ!」
男の横から顔を覗かせながら、光に指をさしながら騒ぎ立てる。
「そんな·····。酷すぎる···。」
思わず顔を覆う。
裏切られた感で頭の中は絶望だ。
普段何も言ってこない他の社員の人たちも、そう思っているんだろうと思うとただ悲しかった。
「ぎゃぁぁぁっ!!!!」
突然の高木の悲鳴に驚き、涙でボロボロになった顔を上げれば、再び男の背中で高木の様子が見えない。
急ぎ前へ出て確認すれば、とんでもない光景が目に飛び込んだ。
男が高木の指を掴み、反対側へと骨を折ってしまった状態で掴んでいるのだ。
「えっ?!!!何してるんですかっ?!!」
光も思わず悲鳴に近い声で震えながらも、男の手を掴み高木の指をなんとか離そうとする。
激しい痛みに悶絶し、膝をつきながら助けを求める高木。
「光のことを指さしたんだ。そんな指要らないだろ。」
無表情かつ瞳孔の開いたままの瞳で、叫ぶ高木を見下ろす。
「やめてください!お願いします!やめてくださいっ!!!」
光も恐ろしすぎる光景に半狂乱になって、色の変わっていく指を掴む男の手を離そうとするがびくともしない。
「光に謝れよ。そしたら切断せずにこのまま離してやるよ。」
「せっ?!切断って!!」
恐怖のあまり完全に言葉を失う光。
自分の名前を何故か男が知ってることなんて、全く気にならない程に。
不本意そうな表情をしながら、汗だくになっている高木に吐き捨てるように言うと、その言葉に被せるように大きな声で謝罪を始めた。
「ごめんなさい!本当に申し訳なかった!私の言い方全てが悪かったです!!!どうか、どうか許して!!!!」
涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔は、恐怖と痛みから満身創痍そのものだった。
「光はこんな謝罪でいいの?」
「十分ですっ!!これ以上は本当に辞めて下さい!!!本当に指がなくなっちゃう!!!」
光も流れる涙を拭くこともなく、ただただ必死に男の骨ばった手を掴む。
分かった、と小さな声が聞こえたか聞こえないかくらいの所でパッと手が離される。
その場で自身の手を包み込むように握りしめ、倒れ込む高木。
「大丈夫ですかっ?!!」
急ぎ高木に駆け寄り手を確認する。
色が若干悪いものの先程までの紫の様な色までにはなっていない。
「い、痛い!やめて!離れて!怖い!!!」
光に対しても恐怖感を覚えたのか、なんとか立ち上がり走り逃げ出して行った。
その場にぽつんと取り残された光は、一体何が起きたのかと頭の中が真っ白だ。
しゃがみ込んだままの背後に再びスっと気配を感じ、思わずビクリと反応してしまう。
(次は自分か·····?!)
この恐怖が自身を包み込む。
ドキドキと恐怖で心臓が高鳴る。
1度止まった涙が再び頬を伝う。
男は光の前にあぐらをかいて座り込む。
ニヤリと微笑む男の目を逸らすことが出来ない。
(怖い。)
カクカクと小さく震えていると、そっと頭を撫でられる。
(?!!)
「あの人。怖かったね。もぅいないから大丈夫。」
優しい声で、そして優しい笑顔で光を見つめる。
そうじゃない。私はあなたが怖いの。と言えない。言ってしまえば、何をされるか想像もつかない。
無言のまま震えてしまう自分をどうしようも出来ずにいる。
と、頭を男の方の所へと持たせかけられる。
「安心して光。
俺が全てから守ってあげる。」
事務所につき、挨拶をしながら入るも緊急会議の為か皆んな不在だった。
隣にある会議室の方からザワザワと声がもれている。
「何よ。私にも聞く権利はあると思うのに。」
気になるが、既に光の机の上には破棄する書類がたんまりと積み上がっていた。
誰か出てくるまで待つか否か迷ったが、パートはやる事やってと言うワードを思い出し、不本意ながらもとりあえず書類をダンボールに詰め込み出す。
今日は一段と多い。
破棄するダンボールが6つにもなった。
それを何とか必死に台車に乗せ、廃棄庫まで向かう。
「····あっ!!!」
頭の中にふと昨日のことがよぎる。
(昨日いたあの人いるかなっ?!さすがにいないよね····?!!)
辺りをキョロキョロしながらゆっくり歩く。
いつもと変わらぬ風景に、僅かにではあるが安堵感を抱く。
「あ!!!パートさん!!!ちょっとここにいたのっ?!!」
後ろから昨晩電話してきたであろう女性職員の高木先輩が険しい顔で駆け寄る。
年齢的には40代くらいだろうか。
かなり急いでいたのか、ボサボサ気味の髪をグッと1つに結んだ感じがある。
「は、はいっ!なんでしょうか?!」
「事務所空けるなんて何してんのよっ!!勝手なことばかりして!本当に仕事が出来ないのねっ!」
突然何を言い出すかと思いきや、すごい剣幕で話し始める。
「っ?!あ、あの昨晩電話でみんなは緊急会議だから、私はやることをやる様に指示を受けたので、先に片付けた方がいいのかと思いまして···。すみません。」
「はぁ。片付けしか能がないの?
そんなこと誰も言ってないわよ。」
「····え?」
一瞬にして空気が凍る。
今まで部長の影でこんな意地悪な人がいることに気が付かなかった。
フンっと鼻で笑う声がした。
「アンタさ。コネなんかで入るから馬鹿なのよ。若くてチヤホヤされたいのか知らないけど、ここにはバカは必要ないの。さっさと辞めてよ。」
「っっ!!!」
人気がないことをいい事に、言いたい放題になっている。
(私がいつ若さを武器にしたのよっ!チヤホヤなんてもってのほかだし、そもそもそんなことされてないじゃないっ!!)
あまりの酷い発言にさすがに悔しさから涙が落ちる。
「ほらねっ!そうやって泣けば味方してくれるとか思ってるんでしょ?本当にいい迷惑だわ。」
「違います!そんなつもりじゃないです!
コネって言いますけど、親戚がここの上の方と友達でしたが、あくまで試験は平等に受けています!」
「知り合いなら0点でも入れてもらえるんじゃないの?アンタバカそうな顔してるもん!あははは!」
さすがに言い過ぎだろう。
涙を必死に拭くが後から後から絶え間なく出て来る。
「おねーさん。言い過ぎなんじゃない?」
「「っ?!!!」」
澄んだ綺麗な低音の声が酷い発言を止める。
突然の声に驚き振り返れば、いつの間にか音もなく光のすぐ後ろに立つ昨日の男がいた。
「なっ、何?びっくりした!!
あのね、私達の状況も知らずに勝手な発言しないでくれる?そもそもあなた誰よ?!」
明らかに動揺を隠しきれずにいるが、必死に虚勢を貼る高木。
「俺はここの者だよ。
状況も何もその言い方はないんじゃない?」
横目でチラリと見やると、座った目付きとニヤリと笑う表情がやはり何とも言いきれない危険な何かを感じさせる。
「っっ!!!!」
危険な何かを感じ取ったのは光だけではないようだ。
高木も同様に、その危険な感覚を察し何も言えずに押し黙る。
「あっ、あたしはねっ!!やることをきちんとやれって言う話を」
「あんたはどうなんだよ?」
「は?」
「あんたはどうなんだって聞いてんだよ。」
冷たく淡々と話す男と、それになんとか噛み付く高木のやり取りが目の前で行われている。
話す度に男は光の前へとゆっくり出て行き、高木の前へと距離を縮めて行く。
高木の表情は高身長の男の背中によって見えないが、男から放たれるとんでもない威圧感に後ずさっているのだけは分かる。
(こ、この人なんで私の味方になってくれてんの?どういう状況?!!!)
着いていけない様子に口を挟むことが出来ない。
「私はちゃんと仕事してるわよ!
コネで入った訳でもないし、日々評価されてここの事務員やってんのよ。」
「なんでお前みたいなレベルの奴がコネで入ったかどうかなんて分かるんだよ?」
「そ、それはっ!!有名な話よ!部長から聞いたの!」
「···え?部長が?」
思わず声が出る。
(部長は入社した時に、入社試験は平等に受けてること分かってるら安心しなさいって言ってくれてたのに·····。なんでそんな嘘を?)
「飲み会の時に部長がみんなの前で言ってたわよ!そもそも、上層部に知り合いがいる時点でコネ決定よっっ!」
男の横から顔を覗かせながら、光に指をさしながら騒ぎ立てる。
「そんな·····。酷すぎる···。」
思わず顔を覆う。
裏切られた感で頭の中は絶望だ。
普段何も言ってこない他の社員の人たちも、そう思っているんだろうと思うとただ悲しかった。
「ぎゃぁぁぁっ!!!!」
突然の高木の悲鳴に驚き、涙でボロボロになった顔を上げれば、再び男の背中で高木の様子が見えない。
急ぎ前へ出て確認すれば、とんでもない光景が目に飛び込んだ。
男が高木の指を掴み、反対側へと骨を折ってしまった状態で掴んでいるのだ。
「えっ?!!!何してるんですかっ?!!」
光も思わず悲鳴に近い声で震えながらも、男の手を掴み高木の指をなんとか離そうとする。
激しい痛みに悶絶し、膝をつきながら助けを求める高木。
「光のことを指さしたんだ。そんな指要らないだろ。」
無表情かつ瞳孔の開いたままの瞳で、叫ぶ高木を見下ろす。
「やめてください!お願いします!やめてくださいっ!!!」
光も恐ろしすぎる光景に半狂乱になって、色の変わっていく指を掴む男の手を離そうとするがびくともしない。
「光に謝れよ。そしたら切断せずにこのまま離してやるよ。」
「せっ?!切断って!!」
恐怖のあまり完全に言葉を失う光。
自分の名前を何故か男が知ってることなんて、全く気にならない程に。
不本意そうな表情をしながら、汗だくになっている高木に吐き捨てるように言うと、その言葉に被せるように大きな声で謝罪を始めた。
「ごめんなさい!本当に申し訳なかった!私の言い方全てが悪かったです!!!どうか、どうか許して!!!!」
涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔は、恐怖と痛みから満身創痍そのものだった。
「光はこんな謝罪でいいの?」
「十分ですっ!!これ以上は本当に辞めて下さい!!!本当に指がなくなっちゃう!!!」
光も流れる涙を拭くこともなく、ただただ必死に男の骨ばった手を掴む。
分かった、と小さな声が聞こえたか聞こえないかくらいの所でパッと手が離される。
その場で自身の手を包み込むように握りしめ、倒れ込む高木。
「大丈夫ですかっ?!!」
急ぎ高木に駆け寄り手を確認する。
色が若干悪いものの先程までの紫の様な色までにはなっていない。
「い、痛い!やめて!離れて!怖い!!!」
光に対しても恐怖感を覚えたのか、なんとか立ち上がり走り逃げ出して行った。
その場にぽつんと取り残された光は、一体何が起きたのかと頭の中が真っ白だ。
しゃがみ込んだままの背後に再びスっと気配を感じ、思わずビクリと反応してしまう。
(次は自分か·····?!)
この恐怖が自身を包み込む。
ドキドキと恐怖で心臓が高鳴る。
1度止まった涙が再び頬を伝う。
男は光の前にあぐらをかいて座り込む。
ニヤリと微笑む男の目を逸らすことが出来ない。
(怖い。)
カクカクと小さく震えていると、そっと頭を撫でられる。
(?!!)
「あの人。怖かったね。もぅいないから大丈夫。」
優しい声で、そして優しい笑顔で光を見つめる。
そうじゃない。私はあなたが怖いの。と言えない。言ってしまえば、何をされるか想像もつかない。
無言のまま震えてしまう自分をどうしようも出来ずにいる。
と、頭を男の方の所へと持たせかけられる。
「安心して光。
俺が全てから守ってあげる。」