悪役令嬢に捧ぐ献身
「──り。うり」

 は、と呼吸を思い出す。
 そして涙でぐちゃぐちゃになったシルヴィアの顔を見詰め、ラウリは思わず吹き出すように笑った。

「分かっててウリと呼んでたんですか、お嬢様」

 ここは、小説の世界などではない。

 無限に再生される同じ結末。
 逃れられない運命。
 愛憎に囚われ、何度も何度も胸にナイフを突き立てた、哀れな娘シルヴィア。
 彼女を救うためにただ一人、気が遠くなるほどの月日を繰り返した『ラウリ』。

 そして、どうしようもなくなった彼らの最期の願いを叶えるため、召喚される悪魔。

 それが自分(・・)だった。

 一人ではどうしてもシルヴィアを救えないと悟った『ラウリ』は、あろうことか魂と肉体を明け渡すことを条件に、自らが従える悪魔を己の中に召喚したのだ。


 ──全ては、この瞬間のために。


 ようやく自分が転生することになった理由を思い出した彼は、『ラウリ』が決して浮かべない不敵な笑みを浮かべて告げる。

「早死に確定の悪役令嬢は卒業だ、シルヴィア。これからは俺が──いや、このラウリが、必ずあなたを幸せにしてみせましょう」

 すぐ背後まで迫った人影の、ナイフを携えた片腕が振り上げられる。ちらりとそれを目視したラウリは、体の奥底で長らく眠っていた己の力を引っ張り出した。

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