悪役令嬢に捧ぐ献身
4.運命を壊して
 ──白目を剥いて気絶した男と、同じく昏倒した黒づくめの刺客は早々に拘束された。

 目を覚ました二人は一様にして「悪魔がいた」と譫言を繰り返しており、まともに会話ができない状態だそうだ。

 しかしながら、彼らが刃物を携えてシルヴィアに近付いたことは、ラウリの怪我を見れば一目瞭然。問答無用で騎士団へと連行された。

 左肩を血塗れにしたラウリは、悲鳴と共に公爵夫妻や侍女たちに迎えられ、泣きじゃくるシルヴィアも無理やり私室へと運ばれていく。

 「うり」と両手を伸ばす彼女にへらへらと手を振り返したのも束の間、ラウリは糸が切れたように倒れてしまった。



 そうして次に目を覚ましたのは、公爵家の財産を狙っていたシルヴィアの叔父と、彼に協力していた者たちがまとめて牢獄にぶちこまれた後だった。

「ラウリ! よかった、本当に……君がいなければシルヴィアは連れ去られていただろう。ありがとう、ラウリ」
「ゆっくり休んでちょうだいね、ラウリ。娘を助けてくれて、本当にありがとう……」
「我が弟ながら情けない。二度と公爵家の敷居を跨げぬよう徹底して対処せねば」

 嗚咽まじりに感謝の言葉を繰り返す公爵夫妻に、ラウリは苦笑をこぼす。彼らも既に、今までの事故や危ない場面が身内によって仕組まれたものだと知ったようだった。

 今後、公爵家の親戚中に一連の事件が共有されることだろう。しばらくは身内同士で緊張した空気が流れるかもしれないが──あれほど執拗に夫妻の命を狙う輩は、あの男だけであることを切に願うばかりだ。

(……これでやっと、ラウリの願いが叶ったのか)

 ラウリは自身の手のひらをじっと見詰め、ゆるく握り締めた。

 王子とヒロイン──否、どこぞの令嬢がまた別の脅威に晒される可能性もあるが、そのときはまた考えることにしよう。

 今はただ、シルヴィアに並々ならぬ献身を捧げた『ラウリ』に、安心して眠るよう伝えるだけだ。

「……ああ、そういえばシルヴィアがずっと心配していてな。後で訪ねさせてもよいか?」
「え!? それはもう願ってもないですどうぞ今すぐにでも」
「後でな」

 しかし公爵夫妻が廊下へ出るや否や、扉の向こうからぱたぱたと軽い足音が近づく。「うりは? うりは?」と駄々をこねるような声も聞こえてきて、ラウリは思わずスーッと息を吸い込み天を仰いでしまった。

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