悪役令嬢に捧ぐ献身
2.溢れる愛情
 ◇


 三か月と言ったな。あれは嘘だ。

 いや待ってくれと、予定の七倍強の歳月を過ごしてしまったラウリは、誰にともなく脳内で言い訳を始める。


 未だに公爵家に居座っている理由その一、シルヴィアが可愛い。


 これは世話をするうちにじわじわと可愛く思えてきたのではなく、前世の記憶をうっすら思い出した直後、対面するや否や人差し指をきゅっと握られた瞬間から「えー!? 何だこの生き物可愛いー!!」と心から感動してしまった。

 大誤算だった。


 理由その二、公爵夫妻の身に迫る危機を追加で思い出した。


 よくよく考えて、娘を溺愛している公爵夫妻や真心込めまくりの使用人たちに囲まれておきながら、たかが王子との結婚が無しになったぐらいで発狂するほどシルヴィアは愛情不足だったのか?

 いやそんなはずはないと疑問に思ったところへ、ラウリの頭に稲妻が落ちたような感覚が訪れた。


 ──公爵夫妻はシルヴィアが一歳の誕生日を迎える前に、馬車の横転事故で亡くなってしまうのだ。


 その後、これ幸いと爵位目当てで押しかけて来た叔父に家を乗っ取られ、シルヴィアは社交の道具として育てられてしまう。

 愛情を知らない彼女は婚約者である王子に依存し、それを恋心と勘違いして大暴走。ヒロインを陥れるために暴漢を雇ったり怪しい集団とつるんだり、その結末は先述の通りである。

 そんな悲しい出来事を思い出したのが、ちょうど事故が起きる豪雨の日。ラウリは他人の気も知らずに爆睡しているベビーシルヴィアを使用人たちに預け、横殴りの雨にも構わず馬を走らせた。

 そして何とか公爵夫妻の馬車を見付け、近くの宿に寄るよう進路変更を促し──事故を未然に防ぐことに成功したのだった。

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