悪役令嬢に捧ぐ献身
「うり」
「ラウリですよお嬢様。何でいつもラだけ消えてるんですかね」
「うり!」
「俺の名前とか何でも良いですよね別にね。今日もめちゃくちゃ可愛いですね」

 しかし、小説のシナリオはそう簡単に変えることはできないのか、以降も公爵夫妻の命が脅かされそうな場面が幾度も訪れたため、ラウリは死に物狂いでそれらを阻止してきた。

 その甲斐あって、公爵夫妻は今現在も元気にシルヴィアを溺愛する日々を送っている。

(──全ては悪魔の生け贄を避けるため、いや! シルヴィアを誰よりも幸せな公爵令嬢にするために……! このラウリ、たとえ火の中水の中!)

 気付けば公爵家から逃げようなどと考えていた頃の彼は死に、今やシルヴィアの忠実なる下僕と化していた。

 密かに拳を握ったラウリの胸元、彼に抱っこされたままきょろきょろと辺りを見渡していたシルヴィアが、おもむろに顔を持ち上げた。

「うり、あしょぼ」
「何して遊びます?」
「ん……めーれ!」
「あー、めーれですか。めーれか……今日はちょっと忙しそうですけど、まぁお嬢様のためなら皆応じてくれるでしょう」

 ほんのりとピンク色を帯びた、光沢のある真っ白な髪をそうっと撫でてやると、シルヴィアがきゃっきゃと喜ぶ。

 暴力的な可愛さを目の当たりにしたラウリは、続けていつの間にかずしりと重たくなった少女においおいと涙しながら廊下を進んだ。

 近頃、二年前と比べて感情が豊かになりすぎている彼の精神を心配する者が後を絶たない。


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