推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
どこにも寄り道はせず、急いで小さな1LDKの我が家に帰り、着替えもせずにコートをベッドに放り投げ、小さなテーブルの前に正座をして何度か深呼吸をする。そして私は専務からいただいた黒い箱を恭しくテーブルの上に置いた。
外箱も中にあるアクセサリーを入れるケースも高級感というのか圧がある。さすがブルガリ。こんなことがなければ一生手にすることはないだろう。ケースを開くと小さな一粒ダイヤが輝いている。小さいけれどどんな光も取りこぼさないくらい輝いている。手を伸ばしながら手を洗ってないことに気づき、これはいけないと洗面所に走ったけれど、蛇口をひねる時に自分の左手を見て動きが止まった。専務に手を取られたんだ私。専務と手が重なったんだ私。思い出してきゅんとなって洗いたくないと思ったけれど、一生それは無理なのでダイヤの為に泣く泣く洗い、また深呼吸してダイヤの前に正座した。
ネックレスを手に取って、しばらく手のひらで見つめていた。キラキラ輝くダイヤの向こう側に専務の幻が見えてきた。
名前を呼ばれた気がした。いい名前って褒めてもらった気がした。あんなに近くでお会いしたことないから、舞い上がってしまい、ふわふわしすぎてしまった。私、変な顔してなかったかな。あぁできることならば、もう一度やり直しをさせてほしい。舞い上がらずきちんと対応して、余裕をもって笑顔で返事をしたかったのに、きっと変な顔をしていただろう。
すごく綺麗な顔をしていた。手を取ってくれた。推しと手が触れた。会話をした(ありがとうございますしか言えてないけど)
とっても優しい笑顔だった。ダイヤを置いてクッションを抱き寄せ「きゃー!」と顔を埋めて叫んでしまう。職場ではこんなミーハーオタクな様子は封印しているけど、すればするほど反動が大きくなる。