推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
「では、行きましょうか?」しれっと自分のコートを持って私が立ち上がるのを待っている。
「ダメです専務」
「何が?あっ、二軒目にいきましょうか?」
「いや、そうじゃなくて、こんな下っ端の私と連絡先を交換するなんて身分が違い……」
「この令和の時代に身分って冗談でも笑えません。ほら行きますよ」グイグイと先に進むので、私は小走りで追いかける。

 「車を置いてきたので送れなくてすみません。タクシーを呼びますね」と、軽く手を上げようとするので私は「駅が近いので」と、その腕に思わず手をかけてしまった。
 触ってしまった。推しに触れるなんて、今日は涙を見せたり、連絡先を繋げたり、ありえない失敗がいっぱいです私。地獄に落ちそう。すると触れている私の手を専務はつかみ、思いのほか強い力で引っ張って、自分の胸の中に私を引き込んだ。
 こんな路上で、専務の胸元に私は抱かれている。その胸は広く温かい。
「せっ専務!」身体が固まる。
「あぁごめんなさい。みなさんの邪魔になりますね」
 そのまま私を抱きながら端っこに移動する。いや、そーゆー意味じゃなくて、離して下さいって意味ですけど、完璧に通じておりません。
「咲月さんって可愛い」そう言われて、ギュッと抱きしめられた。
 溶けそうです。溶けます。ドキドキが止まらない心臓が口から出そうって、こんな感じなんだ。
 そんな私の気持ちをカケラも考えず、専務は私の耳に唇を寄せる。耳が溶けます。そしてケーキよりも甘い声で私を脅迫した。
「LINEブロックしたらクビですよ」と……。
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