推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
枕元の秒針が動いて日付が変わるのを、しっかり見つめてしまう。
眠れない。明日は休みなので無理して眠ることはないけれど、めちゃくちゃ目が冴えていた。専務にハンカチとタクシー代の残りを返さければいけない。運転手さんに領収書をもらった自分を褒めよう。何か自分を褒めないと、押しつぶされて崩れてしまいそうだから。『イケメンの金持ち彼氏ですかぁ?逃がしちゃダメですよ』って運転手さんに言われたけれど、【逃げたいんです私!】と叫びたかった。
至近距離での甘い顔と甘い声。しっかりハグされ耳にキス。逆らうとクビらしい。
天国なのか地獄なのかわからない。
あれから電話もかかってきて
『咲月さんは恋人はいますか?』そう聞かれたので、正直に『いません』と、答えると安心したような声で『よかった。それなら遠慮なく攻めることができる』と、言われてしまった。どーゆーことでしょう?専務は『また連絡します。次は美味しいものを食べましょう』と言って電話を切った。
甘い推しは自己中心的な王子様?
いやいや、ちょっと待って!
こんな私が専務の失恋の傷を癒せるのだろうか?
そんな大役ができるのかしら?
心の傷が深いらしい。まだ彼女を想うと泣きたくなるらしい。
私の推しの王子様を振るなんて考えられなくて、専務の気持ちを考えると泣きたくなったけど(実際泣いたけど)、その傷を癒す義務があると言われると、モブで無力な私なんて尻込みして、後ろ向きのまま地球一周できそうな気分だけど、逆らったらクビだし、その発言はパワハラですけど。万が一クビになったら本気で困る。まだ奨学金も残ってるし、今の職場が好きだし。
頭が回らない。
考えるのはやめて、頑張って寝よう。