推しは策士の御曹司【クールな外科医と間違い結婚~私、身代わりなんですが!】スピンオフ
 専務が自分の部屋にいる。

 王様が気まぐれに下僕の部屋に足を入れたような感じ。不思議すぎて現実感がない。
 専務は部屋に入ると楽しそうにあちこち見るので、私は「すいません。散らかってます」と言い切り、まっさきに洗濯物を集めてクローゼットに詰め込んで、見られてマズいものがあるかどうか素早くサーチする。狭い部屋なのである程度片付いていてよかった。
「飲んでました?」
「うわっ!」テーブルの上のひとり居酒屋を見られてしまい、思わず恥ずかしくて声を出して慌ててしまう。ある意味、洗濯物より恥ずかしい。小さな電気ストーブのスイッチを入れ、専務のコートを預かろうとすると「まだ身体が寒いので」と、言われてから手を大きく広げられた。はい?その手は何でしょう。
「冷え切ってしまって」そう言ってまたハグをする。
「せっ……専務」
「あぁこれでは咲月さんが冷えてしまう」
 離してくれるのかと思ったら、専務は自分のコートを広げてすっぽりと私をコートの中に入れて包み込んだ。
「やっと温まりそうです」
 しっかり私を抱きしめて、髪に頬を埋めている。私の推しはどこまでもマイペースです。心臓が口から出そう。
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