絶対にずっと好きだと証明しましょう
環状八号線沿いの歩道を歩いていると、途中に歩道橋があった。
樹が階段を上がるので楓もついていく。
少し高い場所にいるだけで随分と見晴らしがいい。
2人並んで手すりに肘を乗せ、赤いテールランプや白のヘッドライトが連なり走り抜けていく様子を眺める。
空には半月より少しふくよかな月が白く輝いていた。
「楓っていい名前だよね」樹が道路に目を向けたまま言う。
「唐突になに? 酔ってる?」
「まだ酔っていない。これから楓の家で酔う」
「親いるし、無理でしょ」
楓も樹もまだ家族と一緒に暮らしている。東京の大学に通うのに家を出る必要がないからだ。
でもこんな時、一人暮らしだったらと楓は思う。
途中のコンビニでビールやつまみを買って、2人で楓の部屋に帰って、飲みながらDVDを見たりして、それから――と想像してドキドキする。
楓はまだ樹とそういう関係ではいない。キスはした。そこで止まっている。
「そうか、残念」
大して残念そうな響きはない。
「で、どうして急に名前の話?」
「よく思うんだ。派手じゃないけどいつもいっぱい手を広げて頑張ってる感じのカエデの葉ってユニークで可愛くて、楓にぴったりだなって。もし楓が死んじゃっても、僕はカエデの葉を見るたびに楓を思い出すよ」
「勝手に先に殺さないでくれるかな」
「ねえ、車に乗って2人でどこかに行くとしたら楓はどこに行きたい?」
また唐突に話題が変わる。
楓は線のようにつながって流れていく白や黒やブルーの車を眺める。
どこだっていいけど。
「2人とも免許持ってないよね」
大学に受かったら一緒に免許を取りに行こうと話していたのに、楓たちはまだどの教習所に行くかも決めていなかった。
「そういうことは横の方に置いておいてさ」
「うーん、奈良に行って鹿におせんべいあげたい」
楓は奈良に行ったことがなく、以前鹿せんべいを差し出せば鹿がわんさかよってくるという光景をテレビで見て以来、奈良というより奈良公園に憧れている。
「いいね、鹿せんべいを大盤振る舞いして鹿に囲まれたい」
考えることは楓と同じのようだ。
「樹は?」
「一番遠いところ。楓とだらだらドライブを続ける」
車で行ける一番遠いところってどこだろう。
最南端の沖縄は車では行けないから、フェリーを使って北海道の最北端か、それとも鹿児島だろうか。
でも場所なんてどこでもいい。樹と一緒ならどこだって楽しいと、楓は運転する樹と助手席に座る自分を想像する。
「いいね」
「いいだろ」
「じゃあさ、とりあえず免許取りに行こうよ」
「そうだね」と言って樹がふいに楓を抱き寄せ、唇を重ねる。
少しだけ空に近い場所で交わしたキスはとても甘くて、落下しそうなくらいしびれたけれど、でも頭の片隅で、樹はこんなキスを他の人ともしているのかな、楓はそんなことも考えていた。