絶対にずっと好きだと証明しましょう
「へえー、それはよかったね」

心のこもっていない相槌を打ち、健夫はアイスコーヒーをズズッとすすった。
楓と健夫はまた大学のカフェテリアにいる。
また、というのは、ここのところしょっちゅう健夫と大学のカフェでだべっているからだ。

健夫は「誕生日はどうだった?」と自分から聞いておきながら、楓ののろけ話をつまらなそうに聞いていた。
樹の従弟のユーゴがフランのオーナーの息子だということは話していないが、健夫の渋い反応から話さなくて正解だったと思った。

「あのさ、そっちから聞いておいてそのリアクションはなによ」
「だって僕の方はさんざんだったからさ」

健夫は美幸とフランに行ったものの、樹に振られたことでむしゃくしゃしていた美幸はまず白ワインを頼み、それもソムリエに勧められるまま1本6万円のものをボトルで注文してその後も5万円のワインを追加してぐいぐい飲み続け、目の前の健夫よりもどこかで楓の誕生日を祝っている樹のことばかり気にかけていた。
そんな話が楽しいはずもなく、さすがに健夫がたしなめると酔いが回っていた美幸はキレて立ち上がり、その拍子に指がワイングラスをはじいて床に落とした。
品のいい穏やかなにぎやかさの中でグラスの砕ける異質な音が周囲の視線を集め、何人かの客は食事を中断して眉をひそめ、ウエイターが早足でやってきた。

美幸はふらつきながら逃げるように店を出ていき、慌てて健夫がチェックを済ませて後を追ったときにはもうタクシーに乗り込んで去るところだった。

美幸からはその後、詫びのラインが入ったが、彼女の記憶はまだらボケで、グラスを割ったところなどはすっぽり抜けていた。

――と、確かに散々なバースデー・デートの成り行きを説明してくれた健夫はテーブルに頬杖をつき、はあーと大きく息を吐いた。

「樹君、むかつく」
「樹に罪はないでしょ」
「そうだけどさ」

フランでの食事代は25万円にもなってしまい、家族会員のカードで支払った健夫はバイトして返さなくてはならないと頭を抱えた。
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