絶対にずっと好きだと証明しましょう
高3で樹に告白して付き合えることになったものの、2人の交際は他のカップルと比べるとぼんやりしていた。
樹は優しかったけれど楓に対して恋愛感情があるのかどうかわからない曖昧さで、お互い2本の線路のレールの上を並行して歩いているような距離を楓は感じていた。
そして、それはイコール、樹が楓を求める気持ちの薄さ、気持ちの隙間だと思っていた。
だけどバースデー・デートのおかげでそんな楓の心を薄く覆っていた不安の霧は晴れていき、楓の気持ちは浮き立っていた。


バースデー・デートの翌週の土曜日、樹と楓は「大哺乳類展」を見に上野の科学博物館に行った。

「ヘラジカってこんなに大きいのね」
「これマンモスの毛だって。こんなのが本当にいたんだな」
「アルガリってツタンカーメンみたいだね」
「フクロオオカミって狼っぽくないけどカッコいいな」

館内にずらりと展示された動物のはく製に圧倒されながら、樹と楓は興奮気味にいちいち感想をつぶやき、1体ずつ時間をかけて見ていった。
特別展の後は植物や昆虫の常設展まで大喜びして見たので、昼過ぎに入館したのに展示を満喫して科学博物館を出たときには午後3時半を過ぎていた。

夏の日の太陽はまだ高く、冷房が効いていた博物館を出たとたんに熱気が肌を包んだ。
それでも緑の風景に誘われて、久しぶりに上野恩賜公園に行くことにした。

園内には歴史物件がいろいろある。三代将軍徳川家光が作った上野東照宮や、京都の清水寺にならって寛永8年に造られた清水観音堂を回って、ご尊顔のみ祀られている上野大仏の前に来た時だった。

来週から大学は50日間の夏休みに入る。
まだ何も計画は立てていなかったが、楓は当然、樹とできるだけ遊ぶつもりでいた。
だから突然留学すると聞かされたときにはあまりに驚いて、樹ではなく大仏様の顔を見つめていた。

ワクワクしながら両手いっぱいに抱えていた楓の夏の予定表が大仏様の頭上から青空に一気に散っていく様子が見える。
樹の中には楓と過ごす夏の予定などこれっぽちも気にかけていなかったのかと、すかすかと寂しい気持ちになった。
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