絶対にずっと好きだと証明しましょう

1年間さようなら

樹の出立の日はユーゴがわざわざ会社を休み、車で樹と楓を成田まで送っていった。
渋滞を予測して早めに出発したが道は空いていて、予定よりも随分早く成田に到着した。
11時45分の搭乗時間まで1時間ほどあったので空港内のカフェレストランに入る。
店内はこれから出国するビジネスマンや旅行客、見送りらしき人で8割がた埋まっていた。
店内の中ほどの空いた席に座って楓が何気なく大きな窓の方に顔を向けると、旅先のガイドブックを楽しそうに覗き込んでいるカップルが目に入った。
自分もこれから樹と海外旅行に行く側だったらいいのにと、うらやましく思う。

「楓ちゃんも一緒に行けばよかったのに」

声の主を見ると車を運転するのでビールが飲めないユーゴがソフトクリームてんこ盛りのフルーツパフェを頬張っていた。

「そうですねと言いたいところですが、英語の選考試験、私にはハードル高すぎて無理です。4人しか受からないんですよ」
「そうか。樹は帰国子女だしな。そもそも向こうの大学に入ればよかったのに」
「それも考えたけど4年はちょっと。日本とアメリカ、2年ずつ半々で行けたらベストだけど」

4年間留学することも考えたのか、
2年ずつがベストだったのか、
そこに楓の存在を考えたことはあるのかと、大仏様の前で留学について聞いた時とまた同じ思考に陥る。

楓が恨めし気な目で樹を見とその気配を察したユーゴが「でも4年も離れ離れじゃ寂しいし、1年だって長いよね」と慌ててフォローした。

「それはもう」

楓は瞳を伏せ、しょんぼり度を精いっぱいアピールする。

「アメリカの大学は課題が多くて大変だからこいつ、きっとろくに連絡してこないよ。俺みたいにまめじゃないから」
「そんなことないよ」

樹はこれみよがしに、美味しそうに生ビールをごくりと飲んだ。
それに対抗するようにユーゴはアイスクリームの底に埋まっていたイチゴを頬張った。

「あるよ。おまえはマイペースというかクールっていうか、自分の世界で泳ぐ美しき熱帯魚みたいなやつだからな。すぐ周りを忘れちまう」

熱帯魚ってなんだよ、と樹が顔をしかめる。

「アメリカで楽しんでる樹のことなんて思っていても無駄だからさ、楓ちゃんも忙しくしていた方がいいと思う」

そう言われても何をすれば樹のいない時間を埋められるのか楓にはわからなかった。
車の免許でも取りに行こうか。
いや、きっと教習所に行くたびに、樹と一緒に免許を取りに行くはずだったのにとか思って余計気が沈むに違いない。

楓はそうですねと曖昧に返事をしてクリームソーダのアイスをすくった。

「じゃあうちの会社にバイトに来ない? それかフランのバイトっていうのもありだけど」
「あ、それはいいね。ユーゴ君の会社でバイトすれば就活にも役立つし」

樹が目を輝かせて賛成する。

「じゃあ、決まりだね」

なぜか樹の返事が楓の承諾ということになり、ユーゴは楓が何も言わないうちにスマホを取り出し会社に連絡を入れ、話が勝手に進んでいく。
これを大人の行動力というのか早合点というのか、樹が一人気ままに泳ぐ熱帯魚なら、ユーゴは人を巻き込む波のようでザッパーンと飛沫をあげる音と共にくるくる波に巻き込まれる自分が見えるようだった。
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