絶対にずっと好きだと証明しましょう
いつも陽気なユーゴの声がわずかに湿る。
同じビルから出てきた人たちが足早に、もしくは同僚と会話しながらゆっくり歩いていた楓たちを追い抜いていく。
その背中に目を向けながら珍しくぼんやりした表情で、ユーゴはいつかの記憶をたどっているようだった。

近くにいるのに会話がない。
それは近くにいるのに心が遠いということで、遠くにいて話せないよりずっと寂しいだろう。
ユーゴにはそんな思い出があるのか、もしくはそんな思いを今もしているのだろうか。
ユーゴさん、と声をかけても気づかない。

「ユーゴさん」

楓はもう一度呼んで、ユーゴの腕を軽く引っ張った。

「あ、ごめん、なにか言った?」
「軽くご飯食べていきませんか?」
「あれ? もしかして楓ちゃん、いつもお世話になっている俺にご馳走してくれるわけ? じゃあフランでも行くか」

ユーゴはいつもの調子に戻ってにやっと笑った。

「バイトの身ですから奢れません。安めの店で割り勘です」
「ははは。樹の不義理のお詫びに俺がご馳走するよ」

ユーゴが連れていってくれたのは、客が15人入ればいっぱいになるような、こじんまりとしたビストロだった。
馴染みらしい店員が「奥のテーブルにどうぞ」と笑顔で迎えてくれる。
木のテーブルと椅子、ぼんやりと柔らかな光を灯すランプが山小屋を想像させる可愛らしい店だ。
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