絶対にずっと好きだと証明しましょう
そんな楓が彼に告白なんて暴挙に及んだのは物の弾み、気の迷い、見えない力に背中をどつかれた、そんな感じだろうか。
あのとき――楓から突然告白されたとき。樹は特に驚いた風もなく「いつまで?」と聞いてきた。
バーゲンセールはいつまでやっているのかと尋ねるような気軽さで。
告白しておきながらイエスかノー、いや、ほぼほぼノーの返事しか予想していなかった楓はびっくりして「いつまでって?」と聞き返した。

「いつまで僕を好きでいてくれるの?」

「ずっと。ずっと好きだよ」楓は慌てて答えた。

「絶対に?」樹は笑い、
「絶対に」楓は真剣に答えた

浅はかで安易で無謀な返事は高校生の未熟さ故に許されてもいいと思う。
けれど樹は「絶対とか、ずっとなんて存在しないんだよ」と否定した。
それから「でも、ずっと好きでいてくれたら嬉しいけどね」と、桜の花びら見たいな淡い笑みを浮かべてソメイヨシノの木から離れた。

楓は歩き去っていく樹の背中に叫んだ。

「証明する。絶対があるって。証明するから付き合ってよ」

立ち止まり、ゆっくり振り返った時の樹の顔を、楓はきっと、ずっと、忘れない。
トンボをつかまえて喜ぶ子供みたいな、過ちを赦す慈悲深い神父のような、無邪気さと優しさを詰めた瓶に1滴の意地悪なエッセンスを落とし込んだかのような表情を見せ、樹は答えたのだ。

「いいよ、じゃあ君の”絶対“とか“ずっと“が存在するのか実験しよう」

このとき、楓の名前もちゃんと覚えていないくらい楓に興味がなかったはずの樹は、ただ好奇心だけで楓と付き合うことを承諾したのだと思う。
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