絶対にずっと好きだと証明しましょう
そんな会話をしながら2人はまばゆいクリスマスバージョンの日比谷から新橋に移り、紺の暖簾がかかった居酒屋に入った。
扉を開けたとたん炭火の熱気と香ばしい香りが飛び出してくる。
焼き鳥が自慢の大衆的なその店は、客の8割が中高年男性で若い女性は楓だけだった。
クリスマスらしさなどみじんも感じない店内は仕事帰りのサラリーマンがいつもと同じように飲んで食べているだけだ。

「クリスマスなのにここでよかったの?」

居酒屋で焼き鳥が食べたいとリクエストしたのは楓だ。

「お洒落なお店なんかに行ったらよけい寂しくなりますから。それに本当に焼き鳥が食べたかったんです」
「よし、じゃんじゃん食べてじゃんじゃん飲もう」

生ビールで乾杯し、焼き鳥を一通り注文し、途中からレモンサワーや酎ハイに変え、ハムカツ、ホッケ焼、だし巻き卵を食べ、約3時間しこたま食べ続けて飲んだ。
ジェームズと一緒にサンタモニカあたりに繰り出している樹と、パリで友達とワインで乾杯しているだろうりか子と、新橋の居酒屋で恋人の不在をグチりあう楓とユーゴ。

楓は頭の中のモニターに3か所のクリスマスの様子を映し出した。

それではアメリカとフランス、日本を中継でつなぎます! 

ズームアウトして自分たちの光景を眺めてみる。
おっさんたちでにぎわう居酒屋の店内、傷だらけの年季の入った木のテーブルの上に並ぶ居酒屋メニュー、恋人に置いてきぼりにされたもの同士がグダグダ言いながら焼き鳥の串をくわえる。
楓はくすりとした。

「なにがおかしいの?」

ユーゴはいくら飲んでも顔色が変わらない。

「なんでもない。ユーゴさん、メリークリスマス!」

新橋の居酒屋からの中継でした――楓は心のモニターのスイッチをオフにした。
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