絶対にずっと好きだと証明しましょう
だけど、と美幸さんは一旦言葉を切ってまた続ける。

「男の人ってずるいからね。別れたいと思っても自分からは言い出さないでフェイドアウトで逃げるのが好き」
「だから?」
「つまり楓ちゃんがなにかアクションしない限り先に進めないかもね、っていう予測」
「気が滅入る予測を有難うございます」
「だからさ、私はユーゴさんがいいと思うなあ。優しくてお金持ちでイケメンなんでしょう? いうことないじゃない」

大好きな男がそばにいてくれたらそれでいいと言っておきながら、美幸は最後のまとめとしてユーゴを勧めてくる。
まあ第三者から見たら長く付き合っても相手の気持ちに不安を感じてしまう男より、単純明快でわかりやすく幸せにしてくれそうな男の方がおすすめだということだろう。

近くの席で幼い子供がギャーと泣き出し、とっさに美幸さんが腕時計をチェックした。

「あら、もうこんな時間。健夫君に子供たちを見てもらっているからそろそろ帰らなきゃ」
「忙しいのに急な誘いに付き合ってもらってすみません」
「いいのよ。楓ちゃんと話していると恋に悩んでいた時代がよみがえって楽しいもの。子育てに追われて化粧もろくにしない色気のない日々だから」
「大丈夫。美人は化粧しなくてもきれいですから」
「有難う、ほめてもらうのも久しぶり」

素直に嬉しそうな顔をして、美幸は伝票を取って席を立った。
楓は自分の分を払おうと慌てて財布をバッグから取り出したが「いいわよ。健夫君のおごり」と笑ってカードで支払った。

美幸が乗る地下鉄の降り口まで楓は一緒に歩き、彼女が早足で地下への階段を降りていく姿を見送った。

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