転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】

15 王宮お抱えの白魔術師

 アルデラが、ノアとセナを探して廊下の角を曲がると、バッタリと出会ったクリスとぶつかってしまった。

「おっと! 大丈夫?」

「クリス様!? すみません、急いでいて!」

 クリスの後ろを歩いていたブラッドが、アルデラに気がつかず「あの女、今ごろになって何しに来たんだ?」と文句を言っているのが聞こえた。

 アルデラは身体を傾けて、クリスの後ろにいるブラッドに話しかけた。

「ブラッド、『あの女』って、今、馬車で来たお客さんのこと?」

「アルデラ様、あの女を見たんですか?」

「うん、あのすごく綺麗な人よね?」

 ブラッドはメガネの奥の瞳を不快そうに細めた。

「あの女、こちらに事前連絡もなしに、急に押しかけて来たんですよ? 無礼すぎる」

 クリスが「彼女は、サラサといって、王宮お抱えの高名な白魔術師なんだ」と教えてくれた。

(白魔術師……)

 白魔術は、主に回復や治癒を得意としている。呪いや報復が得意なアルデラの黒魔術とは正反対の存在だ。

 クリスは、「君が倒れたとき、すぐに治療を依頼したけど、返事はもらえなかった。つい先日、『回復したから、もう治療はいらない』と連絡したんだ。今日は何をしに来たんだろうか?」と首をひねっている。

 ブラッドは「迷惑な女です」と眉間にシワをよせた。

「ところで、アルデラは、何を急いでいたの?」

 クリスに聞かれて、そういえば急いでいたことを思い出した。

「ノアとセナを探していて……」

 そのとたんに、「困ります!」という声が聞こえた。アルデラが振り返ると、例の白魔術師サラサが優雅に歩いている。

 サラサの後ろに一人の騎士が続き、さらにその後ろをメイド達が追いかけていた。

「サラサ様、どうかお部屋でお待ちください!」

 サラサは制止に少しも耳を貸さず微笑みを讃えながら、まっすぐこちらに向かって来た。

 クリスとブラッドがサラサに軽く頭を下げたので、アルデラも真似て少し頭を下げた。

(王宮お抱えの白魔術師は、伯爵よりも地位が高いのね)

 ニコリと微笑んだサラサが「久しいですね、クリス」と右手を差し出した。クリスはその手を取ると、手の甲に唇をつけずキスをする仕草をした。

「サラサ様、ようこそお越しくださいました。この度はどういったご用件で?」

「クリス、黒髪の少女が倒れたと聞きました」

 そう言いながらも、ハチミツ色の瞳が、アルデラをしっかりととらえている。

「その件は解決しましたが?」

「そうでしたか? 情報が入れ違ったようですね」

 サラサの視線が外れたかと思うと、後ろに控えているサラサ付きの騎士と視線があった。

(なんなの? 私、ものすごく見られているんだけど……?)

 謎の視線に戸惑っていると、サラサが「ノアは息災ですか?」と聞いた。

 クリスは「はい、お陰様で」と笑みを返す。

(そうだ、ノアとセナを探しているんだった!)

 目的を思い出したアルデラはクリスとサラサに軽く頭を下げ、その場から立ち去ろうとすると、急に腕をつかまれた。

「え?」

 驚き顔を上げるとサラサに右腕をつかまれている。サラサはゆっくりと顔を近づけてきた。

「貴女、珍しい黒髪ね。それに、とっても綺麗だわ」

 ねっとりとしたサラサの瞳に見つめられると、ゾクゾクと寒気がする。

「わたくし、珍しくて綺麗なものが大好きなの」

 サラサがニッコリと微笑むと体中から黒いモヤが溢れ出した。しかし、黒いモヤはすぐにキラキラした空気にかき消されていく。

(何、この女……すごく、ヤバイ気がする)

 改めてサラサ付きの騎士を見ると、光り輝くような銀髪を持つ美青年だった。

(も、もしかして、お気に入りの人間をコレクションしているとか言わないわよね!?)

 アルデラが青くなっていると、クリスが「サラサ様、お部屋にご案内させていただきます」と言いながら、さりげなくサラサを引き離してくれた。

 サラサに「黒髪の貴女も一緒に来て」と、お願いされたけど、ブラッドが「申し訳ありません。この方は、急ぎの用がありますので」と断ってくれた。

「そうなの」

 とても残念そうなサラサに「またね」と手を振られる。

(ありがとうクリス、ブラッド!)

 アルデラは一目散にその場を離れた。

(あの女、ノアのことを知っていたわ)

 ノアは天使のように美しく可愛らしい。

(もしかして、ノアを狙っているとかじゃないわよね?)

 そうなると、サラサが三年後にノアを殺害する犯人の可能性もある。しばらく走ると中庭で遊んでいるノアとセナを見つけた。

(外にいたら、あの女に見つかるかもしれない)

 いち早くこちらに気がついたセナが、ノアの手を引いて近づいて来た。

(すっかり仲良くなっちゃって)

 微笑ましい姿につい口元が緩んでしまうけど、今はそれどころではない。

「私のお部屋で、お茶にしましょう!」

 急な提案に、二人は少し驚いていたけど、すぐに「はい!」「わかった」と同意してくれた。

 ノアとセナを自分の部屋に押し込むと、アルデラはようやくホッと一息ついた。

(まったく次から次へと。悪い奴ってこんなに、たくさんいるものなの?)

 うんざりしながらもアルデラは、また悪者退治ができるかもしれないと、少しワクワクしている不謹慎な自分に気がついた。
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