転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】
17 騎士からの忠告
自室に戻ったアルデラは、本を胸に抱えながら乱れた息を整えた。
(……い、一度、落ち着きましょう)
少しハプニングがあったものの、目的の白魔術の本は手に入れられた。深呼吸を繰り返してから、机に座り分厚い本を開く。
(白魔術……白魔術……あった!)
夢中になって読みふけると、大体のことがわかってきた。
(黒魔術は、願いと同等の代償を支払うけど、白魔術は、自身の魔力を消費するのね)
だからこそ、個人の魔力量によって回復力の差が激しいらしい。
(今の白魔術師のトップは、あの怪しい女サラサ)
この本によると、彼女の魔力量は凄まじく、不治の病を一瞬にして治したり、瀕死の重傷を負った怪我人を救ったりしたこともあるらしい。
(『ただし、本人の身体への負担が大きいため、いつでも使えるわけではない』か。サラサは、王宮お抱えだから王族をメインに治療しているのかしら? クリスの奥さんが病気で亡くなっていることを考えると、貴族でも彼女に治療してもらえないことがあるのね)
サラサがすごいことはわかった。ただ、問題は彼女からあふれ出る黒いモヤだ。
(あれは、かなりヤバイことをしていそうね)
そうとう後ろ暗いことがありそうだけど、今のところ、こちらから怪しい女に関わる気はない。
(とにかく、ノアを守ることが最優先事項よ)
そう思っていたのに、アルデラ宛に届けられた一通の手紙で事態は動き出した。手紙の差出人は、白魔術師のサラサだ。
手紙を届けに来た騎士は、来客用の部屋に通されていた。
(サラサの護衛をしていた、銀髪の騎士だわ)
その銀髪の美青年は、アルデラが直接、手紙を受け取ったのに、なぜか帰ろうとしない。
「まだ何か?」
アルデラが迷惑そうな顔をすると、騎士は小声で「サラサには近づくな」とささやいた。
(この騎士……もしかして、サラサに好意的ではない?)
確信がないので「何のことかしら?」と、とぼけると、騎士はため息をついた。
「これを見ろ」
騎士服の詰襟を指で下げたその下には、白銀の輪っかがつけられていた。中心部には黄色い宝石がはめられている。
「サラサがお気に入りの奴につける首輪だ。手紙の場所に行ったらアンタもつけられるぞ」
騎士は黄色い宝石部分を指さした。
「ここに番号が彫られている。サラサのお気に入り順だ。俺は三番。嬢ちゃんなら一番になれるかもな。どうだ? 最悪な展開だろ?」
騎士は忌々しそうに舌打ちをした。
「それって、サラサがお気に入りの人間をコレクションしているってこと? ひどいことをされるの?」
「いいや、首輪ははめられるが、綺麗な宮殿で、豪華な食事が食えて、しかも昼寝付きだ。仕事はサラサのご機嫌を取ることだけ。喜んで飼われているやつもいる」
「でも、貴方は違うのね」
騎士は「嬢ちゃんは、飼われたいのか?」と言いながら鼻で笑った。
「そんなわけないでしょう」
「そういうことだ」
アルデラが手紙の中を確認すると、サラサが住んでいる琥珀宮に遊びに来てほしいといった内容だった。
「ねぇ、この手紙って私宛よね?」
「そうだ、嬢ちゃん宛だ」
「サラサは、ノアには興味ないの?」
騎士は少し考えるそぶりをした。
「ノアって、確かここの伯爵令息だろ? 興味がないってことはないな。ただ伯爵家の直系には簡単に手が出せないだろ?」
「じゃあ、私ならいいの?」
「だって、嬢ちゃんって、伯爵家からみたら、無理やり押し付けられた迷惑な後妻だろ? サラサのやつ、『クリスがいらないなら、わたくしがもらって可愛がってあげる』って喜んでたぞ」
言葉のナイフが、サクッとアルデラの胸に刺さった。
(迷惑な後妻……確かにその通りね)
腹が立ったので「銀髪騎士様は、お綺麗な顔に似合わず口が悪いわね」と嫌味を言うと、騎士は「おう! そのせいで、サラサには『一生、話さないで』って言われてるからな!」と豪快に笑う。
「サラサのこと、憎くないの?」
騎士はスッと笑顔を消した。
「そりゃ憎いが……妹を助けてもらった恩がある」
騎士からは憎悪と感謝、両方の感情が見て取れた。
(なるほど、こういう風にサラサの黒いモヤは相殺されているのね)
「まぁ、俺の話はいいから! とりあえず、嬢ちゃんはこっちに来るな。な?」
ポンッと肩に乗せられた騎士の手を、アルデラは振り払った。
「いいえ、行くわ。少しでもノアに危害を加える可能性があるなら先に潰しておかないと」
「だから、嬢ちゃん!」
アルデラは気安い騎士をにらみつけた。
「私は伯爵夫人、アルデラよ。次に私のことを『嬢ちゃん』って呼んだら、サラサだけじゃなく貴方も潰すわ」
わずかに騎士の瞳が見開いた。
「アンタ、本気でサラサを潰す気か? 王宮お抱えだぞ? 潰せるのか?」
「貴方、誰にものをたずねているの?」
騎士は「まぁいい。俺は忠告したからな」とあきれた様子で帰っていった。
(……い、一度、落ち着きましょう)
少しハプニングがあったものの、目的の白魔術の本は手に入れられた。深呼吸を繰り返してから、机に座り分厚い本を開く。
(白魔術……白魔術……あった!)
夢中になって読みふけると、大体のことがわかってきた。
(黒魔術は、願いと同等の代償を支払うけど、白魔術は、自身の魔力を消費するのね)
だからこそ、個人の魔力量によって回復力の差が激しいらしい。
(今の白魔術師のトップは、あの怪しい女サラサ)
この本によると、彼女の魔力量は凄まじく、不治の病を一瞬にして治したり、瀕死の重傷を負った怪我人を救ったりしたこともあるらしい。
(『ただし、本人の身体への負担が大きいため、いつでも使えるわけではない』か。サラサは、王宮お抱えだから王族をメインに治療しているのかしら? クリスの奥さんが病気で亡くなっていることを考えると、貴族でも彼女に治療してもらえないことがあるのね)
サラサがすごいことはわかった。ただ、問題は彼女からあふれ出る黒いモヤだ。
(あれは、かなりヤバイことをしていそうね)
そうとう後ろ暗いことがありそうだけど、今のところ、こちらから怪しい女に関わる気はない。
(とにかく、ノアを守ることが最優先事項よ)
そう思っていたのに、アルデラ宛に届けられた一通の手紙で事態は動き出した。手紙の差出人は、白魔術師のサラサだ。
手紙を届けに来た騎士は、来客用の部屋に通されていた。
(サラサの護衛をしていた、銀髪の騎士だわ)
その銀髪の美青年は、アルデラが直接、手紙を受け取ったのに、なぜか帰ろうとしない。
「まだ何か?」
アルデラが迷惑そうな顔をすると、騎士は小声で「サラサには近づくな」とささやいた。
(この騎士……もしかして、サラサに好意的ではない?)
確信がないので「何のことかしら?」と、とぼけると、騎士はため息をついた。
「これを見ろ」
騎士服の詰襟を指で下げたその下には、白銀の輪っかがつけられていた。中心部には黄色い宝石がはめられている。
「サラサがお気に入りの奴につける首輪だ。手紙の場所に行ったらアンタもつけられるぞ」
騎士は黄色い宝石部分を指さした。
「ここに番号が彫られている。サラサのお気に入り順だ。俺は三番。嬢ちゃんなら一番になれるかもな。どうだ? 最悪な展開だろ?」
騎士は忌々しそうに舌打ちをした。
「それって、サラサがお気に入りの人間をコレクションしているってこと? ひどいことをされるの?」
「いいや、首輪ははめられるが、綺麗な宮殿で、豪華な食事が食えて、しかも昼寝付きだ。仕事はサラサのご機嫌を取ることだけ。喜んで飼われているやつもいる」
「でも、貴方は違うのね」
騎士は「嬢ちゃんは、飼われたいのか?」と言いながら鼻で笑った。
「そんなわけないでしょう」
「そういうことだ」
アルデラが手紙の中を確認すると、サラサが住んでいる琥珀宮に遊びに来てほしいといった内容だった。
「ねぇ、この手紙って私宛よね?」
「そうだ、嬢ちゃん宛だ」
「サラサは、ノアには興味ないの?」
騎士は少し考えるそぶりをした。
「ノアって、確かここの伯爵令息だろ? 興味がないってことはないな。ただ伯爵家の直系には簡単に手が出せないだろ?」
「じゃあ、私ならいいの?」
「だって、嬢ちゃんって、伯爵家からみたら、無理やり押し付けられた迷惑な後妻だろ? サラサのやつ、『クリスがいらないなら、わたくしがもらって可愛がってあげる』って喜んでたぞ」
言葉のナイフが、サクッとアルデラの胸に刺さった。
(迷惑な後妻……確かにその通りね)
腹が立ったので「銀髪騎士様は、お綺麗な顔に似合わず口が悪いわね」と嫌味を言うと、騎士は「おう! そのせいで、サラサには『一生、話さないで』って言われてるからな!」と豪快に笑う。
「サラサのこと、憎くないの?」
騎士はスッと笑顔を消した。
「そりゃ憎いが……妹を助けてもらった恩がある」
騎士からは憎悪と感謝、両方の感情が見て取れた。
(なるほど、こういう風にサラサの黒いモヤは相殺されているのね)
「まぁ、俺の話はいいから! とりあえず、嬢ちゃんはこっちに来るな。な?」
ポンッと肩に乗せられた騎士の手を、アルデラは振り払った。
「いいえ、行くわ。少しでもノアに危害を加える可能性があるなら先に潰しておかないと」
「だから、嬢ちゃん!」
アルデラは気安い騎士をにらみつけた。
「私は伯爵夫人、アルデラよ。次に私のことを『嬢ちゃん』って呼んだら、サラサだけじゃなく貴方も潰すわ」
わずかに騎士の瞳が見開いた。
「アンタ、本気でサラサを潰す気か? 王宮お抱えだぞ? 潰せるのか?」
「貴方、誰にものをたずねているの?」
騎士は「まぁいい。俺は忠告したからな」とあきれた様子で帰っていった。