転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】
26 忠犬VS愛玩犬
ブラッドは「護衛の準備をしてきます!」と言い、部屋から出て行った。
アルデラは、ブラッドの背中を見届けてから、机の引き出しを開けた。そこには、透明なビンが並んでいる。
(髪や爪は集めておいたけど、それほどの量はないのよね)
ただ、前にブラッドが自分の髪をバッサリと切って「使ってください」とくれた緑色の髪束はまだ残っている。アルデラは、それらをバスケットの中に詰めていった。
(ハサミも入れてっと。念のため、前に買った魔道具のアクセサリーもつけていったほうが良いわね)
魔道具屋で買った真紅の指輪、ネックレス、イヤリングは、魔力強化効果があり、魔術の代償にも使えるらしい。
アクセサリーを引き出しから取りだすと、部屋の扉がノックされた。返事をするとすぐに侍女のケイシーが顔を出す。その後ろには大きな箱を持った若いメイドが続いた。
「アルデラ様、こちらサラサ様からです」
ケイシーに「開けてみて」と伝えると、箱の中から一枚のドレスを取りだしアルデラに見えるように広げてくれた。
(う、わぁ……これって、ゴスロリってやつかしら?)
真っ黒なドレスには、真っ黒なレースやらフリルやらリボンがたくさんついている。
「サラサからってことは、これを着て来いっこと?」
ケイシーは無言で頷いた。若いメイドは「絶対、奥様に似合いますよぉ」とテンションが上がっている。
(まぁ、このドレスにおかしな細工はないようね)
だったらいいか、とゴスロリを身にまとい、真紅のアクセサリーを身につけた。
ケイシーと若いメイドは「お似合いです」と笑顔で褒めてくれる」。鏡に映るアルデラは、確かにゴスロリを着こなしていた。
(美少女ってすごいわね)
ケイシーが仕上げにゴスロリとセットになっているヘッドドレスをつけてくれた。
「二人ともありがとう。行ってくるわ。しばらく戻らないかもしれないけど、ブラッドに護衛をしてもらっているから心配しないで」
「アルデラ様、いってらっしゃいませ」
「奥様のお戻りを心待ちにしております!」
二人はそろってアルデラに深く頭を下げた。
自室から出ると準備を済ませたブラッドが既に待機していた。その横には、セナとノアの姿もある。
ノアは「アルデラ姉様」と呟いてうつむいてしまった。アルデラはノアのやわらかい髪をそっとなでる。
「心配しないでノア、私は必ずここに戻ってくるわ」
ゆっくりと顔を上げたノアは「そうですよね、ここが姉様の家ですもんね」と少しだけ笑ってくれる。
「そうよ」
アルデラはセナに視線を向けた。
「セナ、私がいない間、ノアを守ってね」
セナは無言でコクリと頷く。
ノアとセナと別れ、ブラッドと二人で銀髪騎士が待っている客間へと向かった。中に入ると、整った顔をした銀髪の青年がニヤリと笑う。
「せっかく俺が忠告してやったのに、自分からサラサに会いに行くなんて。バカだな、お嬢ちゃん」
「相変わらず無礼ね」
アルデラは静かに背後に控えているブラッドの名を呼んだ。
「はい」
名を呼ばれただけでアルデラの命令を理解したのか、前に出たブラッドは銀髪騎士の膝辺りを横から激しく蹴った。
バランスを崩した騎士は、無様に床に倒れ込む。ブラッドは、倒れ込んだ騎士の右腕を締め上げ、銀髪騎士の顔面を床に叩きつけた。
ガツッと鈍く痛そうな音がする。顔面を強打しても悲鳴をあげない所はさすが騎士と言ったところか。
「なんだ!? 急に、何を!?」
アルデラはブラッドに押さえつけられ、床に這いつくばっている騎士を見下ろした。
「あら? 次に私のことを『嬢ちゃん』って呼んだら、サラサだけじゃなくて貴方も潰すって忠告してあげたでしょう? 忘れちゃったの? おバカさんね」
クスクスと笑うと、銀髪騎士は鋭くにらみつけてきた。
「あら、生意気」
アルデラの声を同時に、ブラッドが騎士の顔面をもう一度床に叩きつけた。
「がっ!」
苦しそうな声が聞こえたので少しは効果があるようだ。
「あら大変。サラサのお気に入りのお綺麗な顔に傷がついてしまうわね」
「……このクソ、女……」
騎士の発言を聞いて、アルデラはあきれてため息をついた。
「貴方、何か勘違いしているようだから、優しい私が教えてあげるわ」
ブラッドが銀髪を引っ張り、無理やり騎士の顔をアルデラに向かせた。
「貴方、自分がその整った顔のせいで理不尽な目にあっていると思っているでしょう?」
騎士の眉がピクリと動く。
「この顔のせいで、サラサにペットのように扱われて、俺、可哀想って」
騎士の目に怒りがにじんでいる。
「自分に酔って楽しい? その態度とその口調で、本当に正当な騎士になれると思っているの?」
騎士は「俺は、こうなる前は王宮騎士団にいたんだぞ!?」と叫んだ。
「だから何? 貴方は騎士団内で、サラサに取られても痛くない程度の存在だったから、今、こうなっているのでしょう?」
その言葉を証明するべくブラッドが「王宮騎士団は、実力重視で選ばれる者と、貴婦人の護衛のために顔重視で選ばれる者がいます」と教えてくれる。
その言葉で騎士の全身から、黒いモヤが湧き起こった。
(これは殺意ね。図星をつかれて怒っているのかしら?)
アルデラはため息をついた。
「ねぇ、ブラッド。その騎士は、妹の病気を治してもらった恩で、嫌々サラサに飼われているらしいわ。貴方がもし彼の立場だったらどうする?」
「そうですね。妹を助けてもらったならば、誠心誠意サラサにお仕えします。その後、恩を返しきったと感じたら、顔に切り傷かヤケドでもつくってサラサから捨てられるように仕向けますね」
ブラッドの言葉を聞いて、騎士は大きく目を見開いた。
「そういうことよ。貴方はなるべくしてサラサのペットになっている。その事実も受け入れないで、偉そうに振る舞って恥ずかしくないのかしら?」
フゥとため息をつくと、ブラッドが「この者の処分は、いかがなさいますか?」と淡々と聞いてきた。
「そうね。優しく教えてあげるのはここまでにしましょう。さぁ、宣言通り、貴方を潰すわ。そのお綺麗な顔を潰されるか、それとも騎士の命である利き腕を潰されるか、選ばせてあげる」
銀髪騎士の顔から、サァと血の気が引いていく。
「どうしたの? 簡単な二択でしょう? これからもペットとして生きるなら、腕はいらないわね。騎士として生きるなら、その顔はいらないでしょう?」
「……あ、う……」
「答えられないの? じゃあ、両方潰すわね」
アルデラがにっこりと微笑むと、「う、うわぁああ!?」と騎士の叫び声が辺りに響いた。
「なーんてね。ウソよ、ブラッド放してあげて」
その言葉でブラッドは、パッと騎士の拘束を解いた。床に倒れたまま、大量の汗とうっすら涙を浮かべている騎士に、アルデラは話しかけた。
「この前、私のことを、貴方が『迷惑な後妻』って言ったから、つい仕返しをしてしまったわ」
ブラッドは腰に帯びている剣に手をかけた。
「アルデラ様、この無礼者を処分する許可をください」
「ダメよ。その無礼な騎士はサラサのお気に入りだもの。良かったわね、顔が良くて命拾いしたじゃない」
床から少し顔をあげた騎士の瞳には恐怖が浮かんでいる。
「あら、少しはマシな顔になったわね。起き上がりなさい」
アルデラの言葉に騎士は無言で従った。ブラッドに蹴られた足が痛むのか、すぐには立てないようで床に正座している。
「サラサと貴方が出会ったときのことを詳しく話しなさい」
銀髪の騎士が言うには、妹が急に病に倒れたときに、たまたま、その町に来ていたサラサが妹を救ってくれたそうだ。王宮お抱え白魔術師の治療を受けて、その代金を払えるわけがなく困っていると、サラサに仕えるように提案された。
「ふーん? 全ては偶然だったといえば、それで終わりだけど、サラサはまともじゃないわ。貴方を手に入れるために、何か妹に仕掛けた可能性はないの?」
騎士は「俺も、それを疑ったこともあった……いえ、あったんです」とうつむいた。
「ただ、白魔術は人に害を与えることができないので思い違いかと」
(たしかにそうだけど、人に害を与えるだけの黒魔術でも使い方によっては人を助けることができるわ)
例えば、ブラッドの疲労を万年筆に肩代わりさせたり、主従契約を結ぶことによって、相手の安否を確認できるようにしたり。
(癒すことしかできない白魔術も使い方次第で、人を攻撃できるかもしれない)
そうだとすれば、ノアの安全のためにも、やはりサラサは潰しておかないといけない。
いつまでも正座している騎士にアルデラは微笑みかけた。
「立てるようになったかしら? さぁ、行きましょう。早くサラサを潰さないと」
銀髪の騎士は、恐怖で頬を引きつらせながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
アルデラは、ブラッドの背中を見届けてから、机の引き出しを開けた。そこには、透明なビンが並んでいる。
(髪や爪は集めておいたけど、それほどの量はないのよね)
ただ、前にブラッドが自分の髪をバッサリと切って「使ってください」とくれた緑色の髪束はまだ残っている。アルデラは、それらをバスケットの中に詰めていった。
(ハサミも入れてっと。念のため、前に買った魔道具のアクセサリーもつけていったほうが良いわね)
魔道具屋で買った真紅の指輪、ネックレス、イヤリングは、魔力強化効果があり、魔術の代償にも使えるらしい。
アクセサリーを引き出しから取りだすと、部屋の扉がノックされた。返事をするとすぐに侍女のケイシーが顔を出す。その後ろには大きな箱を持った若いメイドが続いた。
「アルデラ様、こちらサラサ様からです」
ケイシーに「開けてみて」と伝えると、箱の中から一枚のドレスを取りだしアルデラに見えるように広げてくれた。
(う、わぁ……これって、ゴスロリってやつかしら?)
真っ黒なドレスには、真っ黒なレースやらフリルやらリボンがたくさんついている。
「サラサからってことは、これを着て来いっこと?」
ケイシーは無言で頷いた。若いメイドは「絶対、奥様に似合いますよぉ」とテンションが上がっている。
(まぁ、このドレスにおかしな細工はないようね)
だったらいいか、とゴスロリを身にまとい、真紅のアクセサリーを身につけた。
ケイシーと若いメイドは「お似合いです」と笑顔で褒めてくれる」。鏡に映るアルデラは、確かにゴスロリを着こなしていた。
(美少女ってすごいわね)
ケイシーが仕上げにゴスロリとセットになっているヘッドドレスをつけてくれた。
「二人ともありがとう。行ってくるわ。しばらく戻らないかもしれないけど、ブラッドに護衛をしてもらっているから心配しないで」
「アルデラ様、いってらっしゃいませ」
「奥様のお戻りを心待ちにしております!」
二人はそろってアルデラに深く頭を下げた。
自室から出ると準備を済ませたブラッドが既に待機していた。その横には、セナとノアの姿もある。
ノアは「アルデラ姉様」と呟いてうつむいてしまった。アルデラはノアのやわらかい髪をそっとなでる。
「心配しないでノア、私は必ずここに戻ってくるわ」
ゆっくりと顔を上げたノアは「そうですよね、ここが姉様の家ですもんね」と少しだけ笑ってくれる。
「そうよ」
アルデラはセナに視線を向けた。
「セナ、私がいない間、ノアを守ってね」
セナは無言でコクリと頷く。
ノアとセナと別れ、ブラッドと二人で銀髪騎士が待っている客間へと向かった。中に入ると、整った顔をした銀髪の青年がニヤリと笑う。
「せっかく俺が忠告してやったのに、自分からサラサに会いに行くなんて。バカだな、お嬢ちゃん」
「相変わらず無礼ね」
アルデラは静かに背後に控えているブラッドの名を呼んだ。
「はい」
名を呼ばれただけでアルデラの命令を理解したのか、前に出たブラッドは銀髪騎士の膝辺りを横から激しく蹴った。
バランスを崩した騎士は、無様に床に倒れ込む。ブラッドは、倒れ込んだ騎士の右腕を締め上げ、銀髪騎士の顔面を床に叩きつけた。
ガツッと鈍く痛そうな音がする。顔面を強打しても悲鳴をあげない所はさすが騎士と言ったところか。
「なんだ!? 急に、何を!?」
アルデラはブラッドに押さえつけられ、床に這いつくばっている騎士を見下ろした。
「あら? 次に私のことを『嬢ちゃん』って呼んだら、サラサだけじゃなくて貴方も潰すって忠告してあげたでしょう? 忘れちゃったの? おバカさんね」
クスクスと笑うと、銀髪騎士は鋭くにらみつけてきた。
「あら、生意気」
アルデラの声を同時に、ブラッドが騎士の顔面をもう一度床に叩きつけた。
「がっ!」
苦しそうな声が聞こえたので少しは効果があるようだ。
「あら大変。サラサのお気に入りのお綺麗な顔に傷がついてしまうわね」
「……このクソ、女……」
騎士の発言を聞いて、アルデラはあきれてため息をついた。
「貴方、何か勘違いしているようだから、優しい私が教えてあげるわ」
ブラッドが銀髪を引っ張り、無理やり騎士の顔をアルデラに向かせた。
「貴方、自分がその整った顔のせいで理不尽な目にあっていると思っているでしょう?」
騎士の眉がピクリと動く。
「この顔のせいで、サラサにペットのように扱われて、俺、可哀想って」
騎士の目に怒りがにじんでいる。
「自分に酔って楽しい? その態度とその口調で、本当に正当な騎士になれると思っているの?」
騎士は「俺は、こうなる前は王宮騎士団にいたんだぞ!?」と叫んだ。
「だから何? 貴方は騎士団内で、サラサに取られても痛くない程度の存在だったから、今、こうなっているのでしょう?」
その言葉を証明するべくブラッドが「王宮騎士団は、実力重視で選ばれる者と、貴婦人の護衛のために顔重視で選ばれる者がいます」と教えてくれる。
その言葉で騎士の全身から、黒いモヤが湧き起こった。
(これは殺意ね。図星をつかれて怒っているのかしら?)
アルデラはため息をついた。
「ねぇ、ブラッド。その騎士は、妹の病気を治してもらった恩で、嫌々サラサに飼われているらしいわ。貴方がもし彼の立場だったらどうする?」
「そうですね。妹を助けてもらったならば、誠心誠意サラサにお仕えします。その後、恩を返しきったと感じたら、顔に切り傷かヤケドでもつくってサラサから捨てられるように仕向けますね」
ブラッドの言葉を聞いて、騎士は大きく目を見開いた。
「そういうことよ。貴方はなるべくしてサラサのペットになっている。その事実も受け入れないで、偉そうに振る舞って恥ずかしくないのかしら?」
フゥとため息をつくと、ブラッドが「この者の処分は、いかがなさいますか?」と淡々と聞いてきた。
「そうね。優しく教えてあげるのはここまでにしましょう。さぁ、宣言通り、貴方を潰すわ。そのお綺麗な顔を潰されるか、それとも騎士の命である利き腕を潰されるか、選ばせてあげる」
銀髪騎士の顔から、サァと血の気が引いていく。
「どうしたの? 簡単な二択でしょう? これからもペットとして生きるなら、腕はいらないわね。騎士として生きるなら、その顔はいらないでしょう?」
「……あ、う……」
「答えられないの? じゃあ、両方潰すわね」
アルデラがにっこりと微笑むと、「う、うわぁああ!?」と騎士の叫び声が辺りに響いた。
「なーんてね。ウソよ、ブラッド放してあげて」
その言葉でブラッドは、パッと騎士の拘束を解いた。床に倒れたまま、大量の汗とうっすら涙を浮かべている騎士に、アルデラは話しかけた。
「この前、私のことを、貴方が『迷惑な後妻』って言ったから、つい仕返しをしてしまったわ」
ブラッドは腰に帯びている剣に手をかけた。
「アルデラ様、この無礼者を処分する許可をください」
「ダメよ。その無礼な騎士はサラサのお気に入りだもの。良かったわね、顔が良くて命拾いしたじゃない」
床から少し顔をあげた騎士の瞳には恐怖が浮かんでいる。
「あら、少しはマシな顔になったわね。起き上がりなさい」
アルデラの言葉に騎士は無言で従った。ブラッドに蹴られた足が痛むのか、すぐには立てないようで床に正座している。
「サラサと貴方が出会ったときのことを詳しく話しなさい」
銀髪の騎士が言うには、妹が急に病に倒れたときに、たまたま、その町に来ていたサラサが妹を救ってくれたそうだ。王宮お抱え白魔術師の治療を受けて、その代金を払えるわけがなく困っていると、サラサに仕えるように提案された。
「ふーん? 全ては偶然だったといえば、それで終わりだけど、サラサはまともじゃないわ。貴方を手に入れるために、何か妹に仕掛けた可能性はないの?」
騎士は「俺も、それを疑ったこともあった……いえ、あったんです」とうつむいた。
「ただ、白魔術は人に害を与えることができないので思い違いかと」
(たしかにそうだけど、人に害を与えるだけの黒魔術でも使い方によっては人を助けることができるわ)
例えば、ブラッドの疲労を万年筆に肩代わりさせたり、主従契約を結ぶことによって、相手の安否を確認できるようにしたり。
(癒すことしかできない白魔術も使い方次第で、人を攻撃できるかもしれない)
そうだとすれば、ノアの安全のためにも、やはりサラサは潰しておかないといけない。
いつまでも正座している騎士にアルデラは微笑みかけた。
「立てるようになったかしら? さぁ、行きましょう。早くサラサを潰さないと」
銀髪の騎士は、恐怖で頬を引きつらせながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。