転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】
05 護衛【ブラッド視点】
三カ月前から、おかしな夢を見るようになった。
その夢はとても生々しく、いつも夢とは気がつけず絶叫し飛び起きる。肩で荒い呼吸を繰り返しながら、ブラッドは額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
(また、ノア坊ちゃんが……)
この悪夢の中では、お仕えする伯爵家の令息ノアが毎回、惨殺されてしまう。そして、その現場を目撃したブラッドも抗うすべもなく切り殺されてしまう。
(剣術には自信があるのに、まったく歯が立たない)
ブラッドは剣術だけなら王宮騎士団の試験に受かる腕前だった。ただ、生まれつき視力が低くメガネがないと過ごせないため、それを理由に入団を断られてしまった。
貧乏男爵家の三男が剣で生きて行こうと夢見た結果がこれだった。絶望していた所に、以前から友人だったクリスに声をかけられた。クリスは格上の家柄なのに、少しも偉ぶらない所が他の貴族とは違っていた。
「王宮騎士団には劣るけど、伯爵家の護衛騎士はどう?」
「仕方がないなぁ」
そう答えたものの、貧しい実家に帰る訳にも行かず途方にくれていたので、クリスの申し出は有難くて、その日の夜にこっそり泣いた。
裕福だった頃はたくさんいた護衛騎士達も、伯爵家の没落と共にみるみると減っていき、今ではブラッドしか残っていない。
(私が守らないといけないのに!)
夢の中の自分は、いつも後悔に塗れて死んでいく。薄れゆく意識の中で、「ちょうど良かった。お前には死んでもらおうと思っていた」という男の声が聞こえる。そして、「邪魔なあの女も早く殺しましょうよ」という甲高い女の声。
「あの女はまだ殺さない。利用価値があるからな」
楽しそうな男の高笑いを聞きながら、ブラッドの身体は冷たくなっていく。
(ああ、神よ……どうか、もう一度、私にノア坊ちゃんを守る機会を……何でもします、だから……)
そこでいつも目が覚める。
「これは、ただの夢だ」
何度もそう自分に言い聞かせる。目が覚めてもぐっすり眠れていないせいか、最近では、頭が重く思考が鈍い。
伯爵家の借金問題は深刻だった。クリスと話し合い、出来ることは全てした。それなのに、借金返済の目途が立たない。
(どうなっているんだ?)
まるで見えない大蛇にからめとられ、締め上げられているかのように、ジリジリと伯爵家は衰退していく。
(いったいどうしたら……)
後妻として伯爵家に入って来たアルデラが、急に倒れて三カ月もの間、寝たきり状態になっていることも頭痛のタネだった。
(無理やり押し付けられた女など、捨て置けば良いものを)
拾いクセのあるクリスは、ブラッドだけではなく、公爵家でツライ目に合わされていた少女も拾ってきてしまった。
『治療は金がかかるんだ!』と何度言っても、クリスはアルデラの治療を止めなかった。
(このまま、その女は一生起きないかもしれないんだぞ!?)
ブラッドの不安を他所に、ある日、アルデラが起きたと連絡が入った。そして、数日後には『彼女が公爵家に行くから』と、クリスにアルデラの護衛を頼まれることになる。
(信じられないくらい美しくなっていて驚いたが……)
それより驚いたのは、馬車の中で受けた彼女のおまじないだった。その効果は絶大で、疲れのせいでかすんだ視界が急にクリアになり身体が軽くなった。
さらに、アルデラは「実は、その借金、全て返せるかもしれないの」と妖艶に微笑む。
その後に起こったことは信じられないくらい痛快で、ブラッドは快感ともいえるような爽快さに包まれていた。
その日からブラッドはあの悪夢を見なくなった。
(ああ、彼女は、今度こそ『ノア坊ちゃんを守れるように』と、神がつかわせてくださった女神様に違いない)
この日から、ブラッドは盲目的にアルデラを崇拝することになる。
その夢はとても生々しく、いつも夢とは気がつけず絶叫し飛び起きる。肩で荒い呼吸を繰り返しながら、ブラッドは額に浮かんだ汗を手の甲で拭った。
(また、ノア坊ちゃんが……)
この悪夢の中では、お仕えする伯爵家の令息ノアが毎回、惨殺されてしまう。そして、その現場を目撃したブラッドも抗うすべもなく切り殺されてしまう。
(剣術には自信があるのに、まったく歯が立たない)
ブラッドは剣術だけなら王宮騎士団の試験に受かる腕前だった。ただ、生まれつき視力が低くメガネがないと過ごせないため、それを理由に入団を断られてしまった。
貧乏男爵家の三男が剣で生きて行こうと夢見た結果がこれだった。絶望していた所に、以前から友人だったクリスに声をかけられた。クリスは格上の家柄なのに、少しも偉ぶらない所が他の貴族とは違っていた。
「王宮騎士団には劣るけど、伯爵家の護衛騎士はどう?」
「仕方がないなぁ」
そう答えたものの、貧しい実家に帰る訳にも行かず途方にくれていたので、クリスの申し出は有難くて、その日の夜にこっそり泣いた。
裕福だった頃はたくさんいた護衛騎士達も、伯爵家の没落と共にみるみると減っていき、今ではブラッドしか残っていない。
(私が守らないといけないのに!)
夢の中の自分は、いつも後悔に塗れて死んでいく。薄れゆく意識の中で、「ちょうど良かった。お前には死んでもらおうと思っていた」という男の声が聞こえる。そして、「邪魔なあの女も早く殺しましょうよ」という甲高い女の声。
「あの女はまだ殺さない。利用価値があるからな」
楽しそうな男の高笑いを聞きながら、ブラッドの身体は冷たくなっていく。
(ああ、神よ……どうか、もう一度、私にノア坊ちゃんを守る機会を……何でもします、だから……)
そこでいつも目が覚める。
「これは、ただの夢だ」
何度もそう自分に言い聞かせる。目が覚めてもぐっすり眠れていないせいか、最近では、頭が重く思考が鈍い。
伯爵家の借金問題は深刻だった。クリスと話し合い、出来ることは全てした。それなのに、借金返済の目途が立たない。
(どうなっているんだ?)
まるで見えない大蛇にからめとられ、締め上げられているかのように、ジリジリと伯爵家は衰退していく。
(いったいどうしたら……)
後妻として伯爵家に入って来たアルデラが、急に倒れて三カ月もの間、寝たきり状態になっていることも頭痛のタネだった。
(無理やり押し付けられた女など、捨て置けば良いものを)
拾いクセのあるクリスは、ブラッドだけではなく、公爵家でツライ目に合わされていた少女も拾ってきてしまった。
『治療は金がかかるんだ!』と何度言っても、クリスはアルデラの治療を止めなかった。
(このまま、その女は一生起きないかもしれないんだぞ!?)
ブラッドの不安を他所に、ある日、アルデラが起きたと連絡が入った。そして、数日後には『彼女が公爵家に行くから』と、クリスにアルデラの護衛を頼まれることになる。
(信じられないくらい美しくなっていて驚いたが……)
それより驚いたのは、馬車の中で受けた彼女のおまじないだった。その効果は絶大で、疲れのせいでかすんだ視界が急にクリアになり身体が軽くなった。
さらに、アルデラは「実は、その借金、全て返せるかもしれないの」と妖艶に微笑む。
その後に起こったことは信じられないくらい痛快で、ブラッドは快感ともいえるような爽快さに包まれていた。
その日からブラッドはあの悪夢を見なくなった。
(ああ、彼女は、今度こそ『ノア坊ちゃんを守れるように』と、神がつかわせてくださった女神様に違いない)
この日から、ブラッドは盲目的にアルデラを崇拝することになる。