転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】
50 おかしな親子
(こいつらがサラサを利用して甘い汁を吸っていた奴らなのね)
ラギー商会が大きくなったのはサラサのおかげなのかもしれない。そんなことを考えていると、タヌキ顔の男性がキツネ顔の青年に尋ねた。
「して息子よ。お前の策はこれで出尽くしたのか?」
「はい、父上」
それは親子とは思えない淡々とした会話だった。父に礼を取った青年の仕草はとても優雅で姿形と言動に大きな違和感がある。アルデラはサラサに語りかけた。
「サラサは、この二人と知り合いなの?」
サラサはガクガクとふるえながらキツネ顔の青年を見た。それは口を開いていいのかの許可を得ているように見える。
アルデラがコーギルに目配せをすると、コーギルは懐からペンダントを取りだす。それはサラサから奪った、首輪をつけた者から魔力を奪えるペンダントだ。アルデラが、サラサにつけた首輪は外れていない。
(ということは、サラサは私に魔力を奪われて苦しむより、あの二人を恐れているのね。ただの商人にサラサがおびえるかしら?)
サラサは伯爵のクリスにも偉そうな態度を取っていた。貴族相手でもおびえることはないだろう。
(ということは、あの二人は貴族以上……まさか王族?)
まさかねと思いながらもアルデラが「殿下」と呼んでみると、キツネ顔の青年の瞳がわずかに見開いた。
(うそでしょ……)
この国で殿下と呼ばれるのは王の息子や娘達だ。そして、彼らが父と呼ぶ存在はもちろんこの国の王ただ一人。
アルデラが半信半疑で「陛下?」と呼ぶと、タヌキ顔の男は大きなお腹を揺らして豪快に笑った。
「おい、息子。さっそく変装が見破られたぞ」
「父上の威厳は、作り物の皮一枚では覆い隠せないということでしょう」
「わしのせいか?」
「いえ、父上。そういう意味で言ったのではございません」
皮がむけるように二人の全身がベロリと剥がれた。皮の下からは麗しい銀髪の青年と、白い髭を蓄えた白髪の男が立っていた。
コーギルとクリスの口からそれぞれ「殿下」やら「陛下」という驚きの言葉が漏れている。
(いや、それも驚きだけどさ……)
王は服の上からでもわかるくらい筋骨隆々だ。
(ムッキムキの王様って……)
アルデラが呆然としていると王は楽しそうに笑った。
「息子よ。ここからは策を弄(ろう)さず荒事と行こうではないか」
「御意。父上の得意分野ですね」
王がバキバキと指を鳴らした。とてつもなく嫌な予感がして、アルデラはバスケットから爪が入った小瓶を取りだすと素早く床に叩きつけた。
「私達を守って!」
アルデラの叫びと王が床を蹴ったのはほぼ同時だった。「むんっ」という掛け声と共に王の右腕が振り下ろされた。
アルデラに当たる前に、王の右腕が見えない壁に弾かれる。
「むっ!?」
後ろに飛び去った王は、自身の右腕を息子に見えるように上げた。
「息子よ。わしの腕が折れたぞ」
「やはり黒魔術は恐ろしいですね。サラサ、早く回復しなさい」
王子の命令で「は、はい!」とサラサは慌てて王へ駆け寄った。折れた右手に両手をかざすと白い光に包まれる。王は回復した右手をグーパーすると、もう一度見えない壁を殴りつけた。
アルデラの目の前で空間にヒビが入っていく。
(ウ、ウソ……黒魔術を、筋力で破ろうとしているの……?)
急いでバスケットから小瓶を取りだすと床に叩きつけた。アルデラが「私達を守って!」ともう一度叫ぶと黒い炎と共に空間のヒビが消え見えない壁が修復されていく。
壁を殴るのをやめた王は右腕をだらりとさせながら王子を振り返った。またサラサが王に駆け寄り白魔術で回復させている。
「息子よ。正面突破は難しいぞ」
「そのようですね。父上、私の魔術でここに城の兵を呼び出しましょうか?」
王は「呼ぶな。過去の黒魔術師との戦いでは、兵を半分洗脳されて味方同士で殺し合いをさせられたらしいぞ」と言いながらサラサに治してもらった右手をグーパーした。
「そうなのですね。やはり黒魔術は恐ろしいです。我が国から根絶しなければなりません」
「そうだな。洗脳が効かぬ我らで仕留めるしかあるまい。しかし、物理攻撃は防がれてこの有様よ。息子、他の策を出せ」
「はい」
考え始めた王子を見てアルデラは戸惑った。
(なんなの、この親子……?)
マイペースすぎてこちらの調子が狂わされてしまう。
「父上。人質を取るのはどうでしょうか?」
王子がパチンと指を鳴らすと、床に光の輪が現れた。その光の輪の中からノアとセナが現れる。
「ノア!?」
アルデラが叫ぶとノアはきょとんとしながら「姉様?」と呟いた。セナはノアを背後に隠すようにナイフを構えている。
「息子よ。それはいつ見ても不思議だな」
「父上、前にもご説明いたしましたが、これは空間転移魔術ですよ。私の母の血筋です。本来は使用者の全魔力を使って、人生で一度だけ使える命懸けの秘術なのですが……」
王子は王にペンダントを見せた。それはサラサが持っていた魔力を奪えるペンダントと同じ作りだ。
「魔力は首輪をつけた犯罪者どもから補充しています。死んでも少しも惜しくないので使いたい放題ですよ」
ニコリと微笑んだ王子に、王は「さすが我が息子! 無駄がない」と誇らしげだ。王子はアルデラに向き直った。
「さて、こちらは人質を取りました。貴女はどうしますか?」
ラギー商会が大きくなったのはサラサのおかげなのかもしれない。そんなことを考えていると、タヌキ顔の男性がキツネ顔の青年に尋ねた。
「して息子よ。お前の策はこれで出尽くしたのか?」
「はい、父上」
それは親子とは思えない淡々とした会話だった。父に礼を取った青年の仕草はとても優雅で姿形と言動に大きな違和感がある。アルデラはサラサに語りかけた。
「サラサは、この二人と知り合いなの?」
サラサはガクガクとふるえながらキツネ顔の青年を見た。それは口を開いていいのかの許可を得ているように見える。
アルデラがコーギルに目配せをすると、コーギルは懐からペンダントを取りだす。それはサラサから奪った、首輪をつけた者から魔力を奪えるペンダントだ。アルデラが、サラサにつけた首輪は外れていない。
(ということは、サラサは私に魔力を奪われて苦しむより、あの二人を恐れているのね。ただの商人にサラサがおびえるかしら?)
サラサは伯爵のクリスにも偉そうな態度を取っていた。貴族相手でもおびえることはないだろう。
(ということは、あの二人は貴族以上……まさか王族?)
まさかねと思いながらもアルデラが「殿下」と呼んでみると、キツネ顔の青年の瞳がわずかに見開いた。
(うそでしょ……)
この国で殿下と呼ばれるのは王の息子や娘達だ。そして、彼らが父と呼ぶ存在はもちろんこの国の王ただ一人。
アルデラが半信半疑で「陛下?」と呼ぶと、タヌキ顔の男は大きなお腹を揺らして豪快に笑った。
「おい、息子。さっそく変装が見破られたぞ」
「父上の威厳は、作り物の皮一枚では覆い隠せないということでしょう」
「わしのせいか?」
「いえ、父上。そういう意味で言ったのではございません」
皮がむけるように二人の全身がベロリと剥がれた。皮の下からは麗しい銀髪の青年と、白い髭を蓄えた白髪の男が立っていた。
コーギルとクリスの口からそれぞれ「殿下」やら「陛下」という驚きの言葉が漏れている。
(いや、それも驚きだけどさ……)
王は服の上からでもわかるくらい筋骨隆々だ。
(ムッキムキの王様って……)
アルデラが呆然としていると王は楽しそうに笑った。
「息子よ。ここからは策を弄(ろう)さず荒事と行こうではないか」
「御意。父上の得意分野ですね」
王がバキバキと指を鳴らした。とてつもなく嫌な予感がして、アルデラはバスケットから爪が入った小瓶を取りだすと素早く床に叩きつけた。
「私達を守って!」
アルデラの叫びと王が床を蹴ったのはほぼ同時だった。「むんっ」という掛け声と共に王の右腕が振り下ろされた。
アルデラに当たる前に、王の右腕が見えない壁に弾かれる。
「むっ!?」
後ろに飛び去った王は、自身の右腕を息子に見えるように上げた。
「息子よ。わしの腕が折れたぞ」
「やはり黒魔術は恐ろしいですね。サラサ、早く回復しなさい」
王子の命令で「は、はい!」とサラサは慌てて王へ駆け寄った。折れた右手に両手をかざすと白い光に包まれる。王は回復した右手をグーパーすると、もう一度見えない壁を殴りつけた。
アルデラの目の前で空間にヒビが入っていく。
(ウ、ウソ……黒魔術を、筋力で破ろうとしているの……?)
急いでバスケットから小瓶を取りだすと床に叩きつけた。アルデラが「私達を守って!」ともう一度叫ぶと黒い炎と共に空間のヒビが消え見えない壁が修復されていく。
壁を殴るのをやめた王は右腕をだらりとさせながら王子を振り返った。またサラサが王に駆け寄り白魔術で回復させている。
「息子よ。正面突破は難しいぞ」
「そのようですね。父上、私の魔術でここに城の兵を呼び出しましょうか?」
王は「呼ぶな。過去の黒魔術師との戦いでは、兵を半分洗脳されて味方同士で殺し合いをさせられたらしいぞ」と言いながらサラサに治してもらった右手をグーパーした。
「そうなのですね。やはり黒魔術は恐ろしいです。我が国から根絶しなければなりません」
「そうだな。洗脳が効かぬ我らで仕留めるしかあるまい。しかし、物理攻撃は防がれてこの有様よ。息子、他の策を出せ」
「はい」
考え始めた王子を見てアルデラは戸惑った。
(なんなの、この親子……?)
マイペースすぎてこちらの調子が狂わされてしまう。
「父上。人質を取るのはどうでしょうか?」
王子がパチンと指を鳴らすと、床に光の輪が現れた。その光の輪の中からノアとセナが現れる。
「ノア!?」
アルデラが叫ぶとノアはきょとんとしながら「姉様?」と呟いた。セナはノアを背後に隠すようにナイフを構えている。
「息子よ。それはいつ見ても不思議だな」
「父上、前にもご説明いたしましたが、これは空間転移魔術ですよ。私の母の血筋です。本来は使用者の全魔力を使って、人生で一度だけ使える命懸けの秘術なのですが……」
王子は王にペンダントを見せた。それはサラサが持っていた魔力を奪えるペンダントと同じ作りだ。
「魔力は首輪をつけた犯罪者どもから補充しています。死んでも少しも惜しくないので使いたい放題ですよ」
ニコリと微笑んだ王子に、王は「さすが我が息子! 無駄がない」と誇らしげだ。王子はアルデラに向き直った。
「さて、こちらは人質を取りました。貴女はどうしますか?」