転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】
54 作戦会議と一時休戦
「お姉さん!」
身体を揺すられアルデラは我に返った。
そこはいつも夢に出てくるテレビがある和室で、目の前には本物のアルデラがいた。
「ずっとここから観てたけど、お姉さん無茶しすぎだよ!」
「そうだけど、無茶をしないと殺されていたわ」
「そうかもしれないけど……」
困り顔のアルデラに「あのあと、どうなったかわかる?」と聞くとアルデラは首を左右に振った。
「分からないの。このテレビで観れるものはお姉さんが見たものだけだから」
アルデラが気を失う瞬間、ブラッドは確かに「別に犯人がいる」と叫んでいた。
「いったいどういうことなの?」
「私も気になって、今調べていたんだけど」
本物のアルデラはテレビのリモコンを何回か押した。
「あ、あった。お姉さん、これを観て!」
テレビの画面にはブラッドとアルデラが映っている。画面の中で、ブラッドはアルデラに自分が夢で見た犯人達のことを説明していた。ブラッドは犯人達の会話もしっかりと覚えていた。
――ちょうど良かった。お前には死んでもらおうと思っていた。
――邪魔なあの女も早く殺しましょうよ。
――あの女はまだ殺さない。利用価値があるからな。
本物のアルデラは映像を止めた。
「お姉さん。この会話、おかしくない?」
「ん? どこが?」
「だって、さっき戦った王様や王子様は『黒魔術師を消したい』って言ってたよ? 悪だから危険だから国の平和のために倒さないといけないって」
「そうね」
「でも、この犯人は『黒魔術師を何かに利用しよう』って考えているよ。そんな危険なこと、あの王様や王子様が考えるかなぁ?」
言われてみればそうかもしれない。黒魔術の危険性を知っているからこそ彼らは慎重に慎重を重ねてアルデラを殺そうとした。
「じゃあ別に犯人がいるとして、どうしてその犯人はキャロルと手を組んでいるの? どうしてノアを殺したの? それは王子が立てた計画でしょう?」
本物のアルデラは「そっか、そうだね。おかしいね」としょんぼりする。
アルデラが「ああでも待って。もしかして、その犯人は、王子の仲間なのかも?」と言うと、本物のアルデラは不思議そうに首をかしげた。
「ほら、王が言っていたこと、覚えていない? 『洗脳が効かない自分達だけで黒魔術師を倒さないといけない』って。ということは、他にも味方がいるけど今回は連れてこなかっただけとか?」
「ああ、なるほど!」
「そう考えると、敵側は仲間だけど意見が統一されていないってことよね? 黒魔術師を殺したい派と、利用したい派がいるってことでしょう?」
本物のアルデラが「おおー」と言いながら手をパチパチと叩いた。
「あ、お姉さん、もうそろそろ……」
*
急に目の前が真っ暗になったかと思うと、アルデラはベッドの上で横になっていた。手や足が動くことと、どこか痛いところがないか確認してからアルデラはゆっくりと起き上がる。
「ここは……どこ?」
見覚えのない部屋だった。伯爵家や琥珀宮ではない。この部屋は質素な作りで家具もほとんど置かれていなかった。
窓の外から声が聞こえる。誰かが話しているようだ。
アルデラは外からは見えないように身を隠しながらそっと窓の外を覗き見た。男が二人で一心不乱に腕立て伏せをしている。
(騎士の訓練中……?)
その内の一人が「腕立て、やめ!」と号令をかけると、男二人は一度、地面に突っ伏した。すぐにガバッと起き上がったのは王子だった。その横で、フラフラと起き上がったのはブラッドだ。
「で、殿下……。毎朝、こんなに厳しい訓練を……?」
王子は「これは軽いほうですよ。父上がいらっしゃるときはもっと厳しいですから」と言いながら微笑んでいる。
(ど、どういう状況!? というか人の部屋の前で訓練しないでよ)
アルデラがあきれていると、ブラッドがこちらに気がついた。
「アルデラ様! お目覚めになられたのですね!?」
ブラッドは汗を煌めかせながら窓辺に駆け寄ってくる。
「ここはどこ? 私は何日寝ていたの?」
「ここは私の生家の男爵家です。アルデラ様が眠っておられたのは一週間ほどです」
一週間寝込んでいた割には身体が軽い。不思議に思っていると、ブラッドが「アルデラ様が寝込んでいる間、ノア坊ちゃんが毎日白魔術をかけていました」と教えてくれる。
「そうだわ、ノアは大丈夫なの? キャロルは?」
「大丈夫です。ノア坊ちゃんは元気ですし、キャロルも一命を取り留めました」
「そう、良かったわ……。それで? あのあとどうなって、今こうなっているの?」
「それは私から説明しましょう」
王子がタオルで汗を拭きながら近づいてきた。アルデラが王子を警戒するとブラッドが「ご安心ください。今は敵ではありません」と囁いた。
王子は少し恥ずかしそうに頭をかく。
「実はお恥ずかしい話なのですが、身内に裏切られてしまいまして」
「は、はぁ?」
王子が言うには、黒魔術師を討伐するために王が城を空けるので、騎士団長に城の警備を命じたら謀反を起こされてしまったそうだ。
「その謀反を起こした騎士団長が、私の叔父でして」
「えっと、殿下の叔父ということは、つまり陛下の弟ということでしょうか?」
王子は「そうです」と頷く。
「アルデラさんが倒れたあと、その叔父が騎士を引き連れてあの場に乗り込んできまして。何を血迷ったのか私や父までも捕えようとしたので、とっさに私の近くにいた人間ごと空間転移魔術を使いました」
どうやら、黒魔術で封じていた王子の魔術は、そのときには効果が切れて使えるようになっていたようだ。
アルデラが「近くにいた人間ということは、殿下は全員を転移させたわけではないのですね?」と確認すると、王子は「はい、とっさのことで私の周囲にいたものしか転移できず。私は父を助けることができませんでした」と暗い顔をする。
ブラッドが「あの場から逃げられたのは、アルデラ様、殿下、私の他に、ノア坊ちゃんとキャロルだけです」と教えてくれた。
王子が「残りの者達は城の地下牢に捕えられています。皆、まだ生きています。実際に私の魔術で一人で偵察してきたので事実です。きっと私やアルデラさんをおびき出すために生かしているのでしょう」と言いながら悲しそうな顔をした。
「だいたいの流れはわかりました。で、どうしてブラッドは殿下とそんなに仲良しになっているの?」
「実は、その騎士団長がノア坊ちゃん殺しの犯人だったのです。実際に声を聞いて確認したので間違いありません」
ブラッドのその結論は、和室で本物のアルデラと話した内容ともつじつまが合っている。
(なるほどね……。黒魔術師アルデラを利用したかったのは、王位を狙っている王弟の騎士団長だったってわけね。私と王で潰し合いをさせたかったのね)
過去のアルデラは、処刑されるまで黒魔術に目覚めなかったので、騎士団長は思惑が外れて、さぞガッカリしたことだろう。
しかし、やり直しの今では、黒魔術のおかげで王子の策略は切り抜けたけど、代わりに騎士団長の望み通りに王と潰し合ってしまった。
「わかったわ。騎士団長が私達の共通の敵になったのね」
「はい。殿下と話し合い一時休戦して協力しようということになっています」
王子はアルデラに向かって頭を下げた。
「アルデラさん、どうか私に力を貸してください」
「協力はします。ただ、条件があります」
「なんでしょうか?」
「黒魔術師を……私を殺さないでください。確かに黒魔術は万能です。でも悪いことに使うつもりはありません」
「……わかりました。でしたら、こちらも条件があります。私と結婚してください。これからは、排除するのではなく黒魔術師の血筋を王家に取り込みます。そうすれば黒魔術師だからと命を狙われることもなくなりますよ」
突然のプロポーズを受けて、アルデラはなぜか脳裏にクリスの顔が過ぎった。王子の横でブラッドがあんぐりと口を開けている。
「で、殿下。アルデラ様はすでにクリス……いえレイヴンズ伯爵の妻です。いくら殿下でも既婚者を妻には……」
王子は「そうなのです。それだけが問題で……」とため息をついている。アルデラが「それ以外の問題はないんですか?」と尋ねると王子は「はい」と答えた。
「私は強い女性が大好きなので! アルデラさんは理想的です!」
輝く王子スマイルを向けられて、その眩しさにアルデラは目を細める。
(変な人……)
「私のほうは問題がありますよ。ノアの成長をずっと見守りたいですし、それに……」
「それに?」
「たぶん私、夫のクリスのことが好きですから」
王子が「残念です」と答えた横で、ブラッドがとても嬉しそうな顔をしたので、アルデラはなぜか急に恥ずかしくなってうつむいた。
身体を揺すられアルデラは我に返った。
そこはいつも夢に出てくるテレビがある和室で、目の前には本物のアルデラがいた。
「ずっとここから観てたけど、お姉さん無茶しすぎだよ!」
「そうだけど、無茶をしないと殺されていたわ」
「そうかもしれないけど……」
困り顔のアルデラに「あのあと、どうなったかわかる?」と聞くとアルデラは首を左右に振った。
「分からないの。このテレビで観れるものはお姉さんが見たものだけだから」
アルデラが気を失う瞬間、ブラッドは確かに「別に犯人がいる」と叫んでいた。
「いったいどういうことなの?」
「私も気になって、今調べていたんだけど」
本物のアルデラはテレビのリモコンを何回か押した。
「あ、あった。お姉さん、これを観て!」
テレビの画面にはブラッドとアルデラが映っている。画面の中で、ブラッドはアルデラに自分が夢で見た犯人達のことを説明していた。ブラッドは犯人達の会話もしっかりと覚えていた。
――ちょうど良かった。お前には死んでもらおうと思っていた。
――邪魔なあの女も早く殺しましょうよ。
――あの女はまだ殺さない。利用価値があるからな。
本物のアルデラは映像を止めた。
「お姉さん。この会話、おかしくない?」
「ん? どこが?」
「だって、さっき戦った王様や王子様は『黒魔術師を消したい』って言ってたよ? 悪だから危険だから国の平和のために倒さないといけないって」
「そうね」
「でも、この犯人は『黒魔術師を何かに利用しよう』って考えているよ。そんな危険なこと、あの王様や王子様が考えるかなぁ?」
言われてみればそうかもしれない。黒魔術の危険性を知っているからこそ彼らは慎重に慎重を重ねてアルデラを殺そうとした。
「じゃあ別に犯人がいるとして、どうしてその犯人はキャロルと手を組んでいるの? どうしてノアを殺したの? それは王子が立てた計画でしょう?」
本物のアルデラは「そっか、そうだね。おかしいね」としょんぼりする。
アルデラが「ああでも待って。もしかして、その犯人は、王子の仲間なのかも?」と言うと、本物のアルデラは不思議そうに首をかしげた。
「ほら、王が言っていたこと、覚えていない? 『洗脳が効かない自分達だけで黒魔術師を倒さないといけない』って。ということは、他にも味方がいるけど今回は連れてこなかっただけとか?」
「ああ、なるほど!」
「そう考えると、敵側は仲間だけど意見が統一されていないってことよね? 黒魔術師を殺したい派と、利用したい派がいるってことでしょう?」
本物のアルデラが「おおー」と言いながら手をパチパチと叩いた。
「あ、お姉さん、もうそろそろ……」
*
急に目の前が真っ暗になったかと思うと、アルデラはベッドの上で横になっていた。手や足が動くことと、どこか痛いところがないか確認してからアルデラはゆっくりと起き上がる。
「ここは……どこ?」
見覚えのない部屋だった。伯爵家や琥珀宮ではない。この部屋は質素な作りで家具もほとんど置かれていなかった。
窓の外から声が聞こえる。誰かが話しているようだ。
アルデラは外からは見えないように身を隠しながらそっと窓の外を覗き見た。男が二人で一心不乱に腕立て伏せをしている。
(騎士の訓練中……?)
その内の一人が「腕立て、やめ!」と号令をかけると、男二人は一度、地面に突っ伏した。すぐにガバッと起き上がったのは王子だった。その横で、フラフラと起き上がったのはブラッドだ。
「で、殿下……。毎朝、こんなに厳しい訓練を……?」
王子は「これは軽いほうですよ。父上がいらっしゃるときはもっと厳しいですから」と言いながら微笑んでいる。
(ど、どういう状況!? というか人の部屋の前で訓練しないでよ)
アルデラがあきれていると、ブラッドがこちらに気がついた。
「アルデラ様! お目覚めになられたのですね!?」
ブラッドは汗を煌めかせながら窓辺に駆け寄ってくる。
「ここはどこ? 私は何日寝ていたの?」
「ここは私の生家の男爵家です。アルデラ様が眠っておられたのは一週間ほどです」
一週間寝込んでいた割には身体が軽い。不思議に思っていると、ブラッドが「アルデラ様が寝込んでいる間、ノア坊ちゃんが毎日白魔術をかけていました」と教えてくれる。
「そうだわ、ノアは大丈夫なの? キャロルは?」
「大丈夫です。ノア坊ちゃんは元気ですし、キャロルも一命を取り留めました」
「そう、良かったわ……。それで? あのあとどうなって、今こうなっているの?」
「それは私から説明しましょう」
王子がタオルで汗を拭きながら近づいてきた。アルデラが王子を警戒するとブラッドが「ご安心ください。今は敵ではありません」と囁いた。
王子は少し恥ずかしそうに頭をかく。
「実はお恥ずかしい話なのですが、身内に裏切られてしまいまして」
「は、はぁ?」
王子が言うには、黒魔術師を討伐するために王が城を空けるので、騎士団長に城の警備を命じたら謀反を起こされてしまったそうだ。
「その謀反を起こした騎士団長が、私の叔父でして」
「えっと、殿下の叔父ということは、つまり陛下の弟ということでしょうか?」
王子は「そうです」と頷く。
「アルデラさんが倒れたあと、その叔父が騎士を引き連れてあの場に乗り込んできまして。何を血迷ったのか私や父までも捕えようとしたので、とっさに私の近くにいた人間ごと空間転移魔術を使いました」
どうやら、黒魔術で封じていた王子の魔術は、そのときには効果が切れて使えるようになっていたようだ。
アルデラが「近くにいた人間ということは、殿下は全員を転移させたわけではないのですね?」と確認すると、王子は「はい、とっさのことで私の周囲にいたものしか転移できず。私は父を助けることができませんでした」と暗い顔をする。
ブラッドが「あの場から逃げられたのは、アルデラ様、殿下、私の他に、ノア坊ちゃんとキャロルだけです」と教えてくれた。
王子が「残りの者達は城の地下牢に捕えられています。皆、まだ生きています。実際に私の魔術で一人で偵察してきたので事実です。きっと私やアルデラさんをおびき出すために生かしているのでしょう」と言いながら悲しそうな顔をした。
「だいたいの流れはわかりました。で、どうしてブラッドは殿下とそんなに仲良しになっているの?」
「実は、その騎士団長がノア坊ちゃん殺しの犯人だったのです。実際に声を聞いて確認したので間違いありません」
ブラッドのその結論は、和室で本物のアルデラと話した内容ともつじつまが合っている。
(なるほどね……。黒魔術師アルデラを利用したかったのは、王位を狙っている王弟の騎士団長だったってわけね。私と王で潰し合いをさせたかったのね)
過去のアルデラは、処刑されるまで黒魔術に目覚めなかったので、騎士団長は思惑が外れて、さぞガッカリしたことだろう。
しかし、やり直しの今では、黒魔術のおかげで王子の策略は切り抜けたけど、代わりに騎士団長の望み通りに王と潰し合ってしまった。
「わかったわ。騎士団長が私達の共通の敵になったのね」
「はい。殿下と話し合い一時休戦して協力しようということになっています」
王子はアルデラに向かって頭を下げた。
「アルデラさん、どうか私に力を貸してください」
「協力はします。ただ、条件があります」
「なんでしょうか?」
「黒魔術師を……私を殺さないでください。確かに黒魔術は万能です。でも悪いことに使うつもりはありません」
「……わかりました。でしたら、こちらも条件があります。私と結婚してください。これからは、排除するのではなく黒魔術師の血筋を王家に取り込みます。そうすれば黒魔術師だからと命を狙われることもなくなりますよ」
突然のプロポーズを受けて、アルデラはなぜか脳裏にクリスの顔が過ぎった。王子の横でブラッドがあんぐりと口を開けている。
「で、殿下。アルデラ様はすでにクリス……いえレイヴンズ伯爵の妻です。いくら殿下でも既婚者を妻には……」
王子は「そうなのです。それだけが問題で……」とため息をついている。アルデラが「それ以外の問題はないんですか?」と尋ねると王子は「はい」と答えた。
「私は強い女性が大好きなので! アルデラさんは理想的です!」
輝く王子スマイルを向けられて、その眩しさにアルデラは目を細める。
(変な人……)
「私のほうは問題がありますよ。ノアの成長をずっと見守りたいですし、それに……」
「それに?」
「たぶん私、夫のクリスのことが好きですから」
王子が「残念です」と答えた横で、ブラッドがとても嬉しそうな顔をしたので、アルデラはなぜか急に恥ずかしくなってうつむいた。