転生悪女の幸せ家族計画~黒魔術チートで周囲の人達を幸せにします~【書籍化+コミカライズ準備中】
55 手を組んではいけない二人
アルデラは赤い顔のまま咳払いをした。
「話を戻しましょう。殿下と私が結婚する以外の方法はありませんか?」
王子は「うーん」と言いながら腕を組んだ。
「そうですね。他には黒魔術を制御する魔道具を作らせる、とかですかね? あまり現実的ではありませんが」
「黒魔術の制御……それができれば確かに王家の不安も減りますね」
アルデラは初代公爵家当主に作られたセナなら何かわかるかもしれないと思った。
「アルデラさん。この話はあとにして、とにかく今は手を組んでお互いの大切な人を取り返しませんか? もちろん、もう二度と貴女の命を狙わないことをお約束します。私の命にかけて」
王子にどこかで見たことのある懐中時計を手渡された。
「これは実は魔道具でして……」と説明しようとする王子をアルデラはとめた。
「知っています。この懐中時計の中に殿下の命が入っているのですよね?」
「そうです。……王家以外には存在すら知られていない国宝級の魔道具をどうして貴女が知っているのかが大変気になりますが今は流しましょう」
『それを作ったであろう王宮お抱えの魔道具師本人からもらって、私も持っているんです』と言えば、魔道具師が王子に大変な目にあわされそうな気がしたので、アルデラも王子に合わせて話を流した。
「殿下はとても怖い方ですから、この懐中時計は有難く受け取っておきます。これくらいしていただかないと信用できません」
「では、これで私のことを信用していただけましたか?」
「はい、ひとまずは」
満足そうにニコリと微笑んだ王子に、アルデラは気になっていたことを聞いた。
「それで、殿下は私に何をさせようとしているのですか? 自由に場所を転移できる殿下が牢から陛下を助けられない理由があるのですよね?」
王子は「アルデラさんは理解が早い。さすが父上と私が敗北を認めた方ですね」と拍手する。
「貴女のおっしゃる通りでして、実は父が繋がれている牢屋が厄介なのです。牢屋自体が魔道具になっていて、制作者はマスターだと言われています」
「マスター……初代公爵家当主ですね」
彼はアルデラと同じ黒髪黒目を持つ最強の黒魔術師だったらしい。
「それで、その牢屋の開け方は?」
王子は「王の証しであるブローチを持つ者しか開けることができません。本来なら父のみが開けられたのですが、ブローチは騎士団長である叔父に奪われてしまいました。なんとかしてそのブローチを取り戻さなければ……」と言いながら難しい顔をしている。
どこかで聞いたことのあるブローチの話にアルデラとブラッドは顔を見合わせた。アルデラの脳裏に、公爵家の証のブローチを奪ったときのことと、サラサから魔道具のペンダントを奪ったときのことが蘇る。
「殿下、お任せください。私達、そういうの得意です」
*
アルデラが宣言した通り、事態はすぐに解決した。
まず王子の空間転移魔術でアルデラ、ブラッド、王子の三人が王城内部に転移。
駆け付けた王宮騎士団の半分にアルデラが黒魔術をかけ洗脳。残り半分と争わせた。
心が綺麗だったり行いが立派だったりする人物には黒魔術をかけることは難しいけど、幸か不幸か王宮騎士団員の中にはいなかったようだ。
ちなみに黒魔術の代償として使っているのは男爵家の使用人の髪だった。希望者から髪を高額で買い取らせてもらった。支払いは王子持ちだ。
味方同士で切り合いを始めた騎士団の横を通り過ぎながら、アルデラが「王宮騎士団はあまり良いウワサは聞きませんね」と王子に言うと、王子は「騎士団のことは叔父に任せっきりでしたので。お恥ずかしい限りです」と重いため息をついた。
アルデラは不思議に思って「殿下ほど優秀なお方が?」と尋ねると、王子は「つい最近まで黒魔術師の抹殺が最優先事項でしたので」と微笑む。
(ああ、そっか。今まで私を殺すことが最優先だったから、騎士団のことにまで手がまわらなかったのね)
なんとも言えない気分になりながら、アルデラは王子とブラッドと共に謁見の間を目指した。
特に問題もなく謁見の間にたどり着くと、王座に座っている騎士団長は具合が悪そうだった。それもそのはずで、憎悪でできた黒い大蛇が騎士団長をしめ上げている。
アルデラが「あれは陛下の周りにいた大蛇ですか?」と確認すると、王子は「そのようですね。王の器でもないのに、あの椅子に座るからああなるのですよ。まったく叔父には困ったものです」と、またため息をついた。
騎士団長の胸元には、公爵家当主の証とよく似たブローチが輝いている。
「あれを取り返せばいいのね」
凶暴化している大蛇に近づくのは危険かもしれない。アルデラは手に持っていた髪束を代償に黒魔術を発動させた。
「大蛇を騎士団長から引き離して」
髪束はすぐに黒い炎に包まれ、大蛇が騎士団長から離れた。
「ブラッド、今よブローチを奪って!」
「はっ」
短く返事をしたブラッドは素早く鞘から剣を引き抜くと、騎士団長に向かって駆けた。そして、騎士団長の胸元のブローチを引っ張ったかと思うと、ブローチの根元を服ごと切り裂く。
「鮮やかな手際ですね」と感心する王子に、アルデラは「もう三回目なので」と苦笑する。
予想外だったことは騎士団長から離れた大蛇がこちらに向かってきたことだ。
「あら、大変」
アルデラがそう呟いたと同時に王子に肩を抱き寄せられた。王子がパチンと指を鳴らすと、アルデラと王子はブラッドの側に立っていた。
そして、もう一度王子が指を鳴らすと、三人は地下牢にいた。
「殿下の魔術はすごいですね」
アルデラがそう言うと、王子は「私とアルデラさんが手を組むと、簡単に世界を征服できそうですね」と真顔で言った。
いつもニコニコしている人の急な真顔に少しの恐怖を感じながらアルデラは答える。
「それは……あまり楽しそうではありませんね」
王子はフッと噴き出したあとに「そうですね」と微笑んだ。
「話を戻しましょう。殿下と私が結婚する以外の方法はありませんか?」
王子は「うーん」と言いながら腕を組んだ。
「そうですね。他には黒魔術を制御する魔道具を作らせる、とかですかね? あまり現実的ではありませんが」
「黒魔術の制御……それができれば確かに王家の不安も減りますね」
アルデラは初代公爵家当主に作られたセナなら何かわかるかもしれないと思った。
「アルデラさん。この話はあとにして、とにかく今は手を組んでお互いの大切な人を取り返しませんか? もちろん、もう二度と貴女の命を狙わないことをお約束します。私の命にかけて」
王子にどこかで見たことのある懐中時計を手渡された。
「これは実は魔道具でして……」と説明しようとする王子をアルデラはとめた。
「知っています。この懐中時計の中に殿下の命が入っているのですよね?」
「そうです。……王家以外には存在すら知られていない国宝級の魔道具をどうして貴女が知っているのかが大変気になりますが今は流しましょう」
『それを作ったであろう王宮お抱えの魔道具師本人からもらって、私も持っているんです』と言えば、魔道具師が王子に大変な目にあわされそうな気がしたので、アルデラも王子に合わせて話を流した。
「殿下はとても怖い方ですから、この懐中時計は有難く受け取っておきます。これくらいしていただかないと信用できません」
「では、これで私のことを信用していただけましたか?」
「はい、ひとまずは」
満足そうにニコリと微笑んだ王子に、アルデラは気になっていたことを聞いた。
「それで、殿下は私に何をさせようとしているのですか? 自由に場所を転移できる殿下が牢から陛下を助けられない理由があるのですよね?」
王子は「アルデラさんは理解が早い。さすが父上と私が敗北を認めた方ですね」と拍手する。
「貴女のおっしゃる通りでして、実は父が繋がれている牢屋が厄介なのです。牢屋自体が魔道具になっていて、制作者はマスターだと言われています」
「マスター……初代公爵家当主ですね」
彼はアルデラと同じ黒髪黒目を持つ最強の黒魔術師だったらしい。
「それで、その牢屋の開け方は?」
王子は「王の証しであるブローチを持つ者しか開けることができません。本来なら父のみが開けられたのですが、ブローチは騎士団長である叔父に奪われてしまいました。なんとかしてそのブローチを取り戻さなければ……」と言いながら難しい顔をしている。
どこかで聞いたことのあるブローチの話にアルデラとブラッドは顔を見合わせた。アルデラの脳裏に、公爵家の証のブローチを奪ったときのことと、サラサから魔道具のペンダントを奪ったときのことが蘇る。
「殿下、お任せください。私達、そういうの得意です」
*
アルデラが宣言した通り、事態はすぐに解決した。
まず王子の空間転移魔術でアルデラ、ブラッド、王子の三人が王城内部に転移。
駆け付けた王宮騎士団の半分にアルデラが黒魔術をかけ洗脳。残り半分と争わせた。
心が綺麗だったり行いが立派だったりする人物には黒魔術をかけることは難しいけど、幸か不幸か王宮騎士団員の中にはいなかったようだ。
ちなみに黒魔術の代償として使っているのは男爵家の使用人の髪だった。希望者から髪を高額で買い取らせてもらった。支払いは王子持ちだ。
味方同士で切り合いを始めた騎士団の横を通り過ぎながら、アルデラが「王宮騎士団はあまり良いウワサは聞きませんね」と王子に言うと、王子は「騎士団のことは叔父に任せっきりでしたので。お恥ずかしい限りです」と重いため息をついた。
アルデラは不思議に思って「殿下ほど優秀なお方が?」と尋ねると、王子は「つい最近まで黒魔術師の抹殺が最優先事項でしたので」と微笑む。
(ああ、そっか。今まで私を殺すことが最優先だったから、騎士団のことにまで手がまわらなかったのね)
なんとも言えない気分になりながら、アルデラは王子とブラッドと共に謁見の間を目指した。
特に問題もなく謁見の間にたどり着くと、王座に座っている騎士団長は具合が悪そうだった。それもそのはずで、憎悪でできた黒い大蛇が騎士団長をしめ上げている。
アルデラが「あれは陛下の周りにいた大蛇ですか?」と確認すると、王子は「そのようですね。王の器でもないのに、あの椅子に座るからああなるのですよ。まったく叔父には困ったものです」と、またため息をついた。
騎士団長の胸元には、公爵家当主の証とよく似たブローチが輝いている。
「あれを取り返せばいいのね」
凶暴化している大蛇に近づくのは危険かもしれない。アルデラは手に持っていた髪束を代償に黒魔術を発動させた。
「大蛇を騎士団長から引き離して」
髪束はすぐに黒い炎に包まれ、大蛇が騎士団長から離れた。
「ブラッド、今よブローチを奪って!」
「はっ」
短く返事をしたブラッドは素早く鞘から剣を引き抜くと、騎士団長に向かって駆けた。そして、騎士団長の胸元のブローチを引っ張ったかと思うと、ブローチの根元を服ごと切り裂く。
「鮮やかな手際ですね」と感心する王子に、アルデラは「もう三回目なので」と苦笑する。
予想外だったことは騎士団長から離れた大蛇がこちらに向かってきたことだ。
「あら、大変」
アルデラがそう呟いたと同時に王子に肩を抱き寄せられた。王子がパチンと指を鳴らすと、アルデラと王子はブラッドの側に立っていた。
そして、もう一度王子が指を鳴らすと、三人は地下牢にいた。
「殿下の魔術はすごいですね」
アルデラがそう言うと、王子は「私とアルデラさんが手を組むと、簡単に世界を征服できそうですね」と真顔で言った。
いつもニコニコしている人の急な真顔に少しの恐怖を感じながらアルデラは答える。
「それは……あまり楽しそうではありませんね」
王子はフッと噴き出したあとに「そうですね」と微笑んだ。