とある蛇の話
悔しさのあまり、涙が出そうになった。
やり返したいと素直にも思った。
だけど……出来なかった。
それはどうしてかなんて、すぐに分かるだろう。
家の前には、お爺さんのお墓があって惨めな姿をここで見せたくなかったからだ。
「こんな酷いことをするのは、天使の役目じゃないでしょ?」
僕はただただ、悲しい失意のような目を彼女らに向ける。
天使だからこそ、天界や人間を幸せにするために仕事をしてほしかった。
天使は直属の、神様の部下そのもの。
神様は人々の幸せを願って、人間やこの世界をきっと作り出したっていのもあるんだと思う。
こんな薄汚く、非常識な欲望に駆られた貪欲な現実を作り出したくはないに決まってる。
皆平和で、平等、そして安心安全な心の豊かさを願っていて、そんな世界にしようともがいているのにーーー。
「あなた馬鹿ですわね………心でそんな綺麗事を思い馳せていましたの?」
頭の中で沸々と湧いた、言葉を上級天使は遮った。
周りの下級天使も笑っている。
「お前さ………理想の世界っていうのは、残酷な犠牲があったからこそ存在するっての、知ってんの?」
高らかに黒髪ロングの下級天使が高らかに、宣言した。
「犠牲って、なんの犠牲なの?皆が平和でいようと考えて、世界を作っていこうとしている途中なのに、そこで犠牲ってのは伴うの?そんなのあり得ない!!」
「それがあり得るのですわ。それはそうですね……人間界が一番わかりやすいですわね……」
上級天使は、持っていた銀箔の扇子を広げて扇ぎ始めた。
美しい金の鬣が、フワリとまって金色の粉が舞う。
その粉は大地に落ち、芽が芽吹いて1輪咲いては枯れた。
「例えば……世間一般で言う普通の子供がいたとするでしょう?その子供がどうして幸せに、学校や、日々の生活を営む幸せや幸福があるのかご存知?」
「………それは………」
ーーーお父さんとお母さんが、仕事で辛い思いをして働いているから………。
そう頭に思い浮かんだ時には、正直頭が上がらなかった。
「お前が頭に浮かんだその答えが、世界のすべて……人間界もろとも、この蹂躙した世界の秩序なんだよ」
「………でも……だからってこんな、酷いいじめをしても……誰の徳にもならない生産性の無い空虚みたいなもんじゃないか!!」
確かに彼らの言うことには、一理はあると思う。
でもだからといって、いじめや不正、犯罪まがいのことをしたってもしそれで一部の人間が幸せになったとしても、一時的な幸福でずっと、幸せになれるわけじゃない。