とある蛇の話

転生……?




「っぷはっ!?」



目覚まし時計に叩き起こされて、急いでベッドから背を上げるように、僕は飛び起きた。



背を上げてみると、そこは海の浜辺近いところだった。



近くにいた水着を着た、小さな女の子。




「ギャァァァーーー!!!」と雄叫びを開けて僕の元から去っていく。




ーーー………あれ!?人間!?どうして!?




驚くことは、実に容易いことだった。


人間と天界人の変化は、独特な匂いで区別が出来るからだ。



人間は動物臭い匂いで、天界住人は甘い果実をもぎ取ったような嗅覚をつく。



ここは全体的に、ものすごく人間臭い。



移動してきた先が天界だと思っていたからこそ、驚きも2倍だ。



手をかざそうとするけれど、どこにも手は出てこなくてーーー。




ーーー………なんか、鱗が多くない?




体全身を見渡そうと、グルグル視界を巡らすけれど手足が見えないどころか、自分の胴体も見えない。



嫌な予感がしたから、海に映し出された僕の姿をゆっくり見る。




細長い胴体は、手足は密着して人間の形をしていなかった。



頭だと思われるその顔は、鋭い赤い瞳孔を宿すつり上がった眼球が2つ埋め込まれている。



ーーー白い………蛇?





右に首を動かしてみた。




同じ様に動く。




尻尾を両サイド振ってみる。



怖いぐらいにシンクロしてる。




「えっーーーー!?!?!」




人間界に来たと思ったら、蛇に転生していたみたい………。





悲しい雄叫びも虚しく、激しいかすれたような声しか出ない。




蛇に確かに声帯というものは存在しない。




だからこそ助けを求めようとしても、誰も手を差し伸べてくれる人は居ないわけで。




「おぉ!!なんじゃお前!!」




釣りをしているおじさんに捕まって、餌にされそうになったりーー。




「警察ですか!?蛇が娘に噛みつこうとしてるんです!!」




凶暴で毒蛇だと、親子連れのお母さんに勘違いされたりしてーーー。





ーーー助けを求めてるのに、誰も助けてくれないよ………酷い………!!





ヘトヘトになって、走って逃げたような疲労が僕を襲ったのは夜中の十二時だった。




薄暗い住宅街は不気味で、仲間一人いたりしない空虚とした田舎町。




天敵である猫も、数匹うろちょろしていたから良からぬ考えが広まる。




ーーこのままじゃ、食べられちゃうかもしれない……何処かに雨宿りみたいな場所見つけないと………。




天界に帰りたいという欲求や焦りになんとか蓋をして、とある古民家の敷地内にひれ伏せる。





ーーー電気ついてないし………誰もいないよね。中庭っぽいけど疲れちゃった………。寝よう……。


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