とある蛇の話

僕は胸元に下げた、ペンダントのチェーンをつまみ鍵を見る。




ーーそういえば、全然「禁忌図書館」に出向いたことが一度もない。




正確にいえば、どこにあるのかさえわからないと言ったほうが正しいのだけど。



「禁忌図書館にどうやったら、辿り着くことができるんだろう………」




何でもないような、そんな疑問が頭をよぎっては消えての繰り返し。





禁忌図書館の鍵を手に入れたあの日から、その存在は頭から離れない異質なものだった。



だが今でも、その居場所というのをこの鍵は見せてくれる兆しを一向に見せない。




ーーー何でもかんでも、蛇に知られないように禁忌図書館の方から警戒してるんだろうな。





そうじゃなければ、500年間ずっと足を踏み入れていないのにも理由は分かる。




だけども、じゃあだ。




何故神々の泉に落ちた時に、不思議な力が現れて人間界へワープさせたのか?




疑問が深まるばかりで、謎は一向に溶けない。




どんだけ僕の、シワのない脳味噌で考えたって堂々周りするだけで時間の無駄だった。




ふと、理央くんの写真が目に入る。




「理央くんに会いたい………」






どんな最高の使命や、謎よりも今はこの気持ちの高鳴りが欲しいと体が答えてる。



確か友達に、この胸の苦しみは「恋」だと聞いたことがある。



恋というのは、人間がよく異性に特殊な感情を抱き繋がりたいという欲求のことを言うらしいけどーーー。




「異性じゃないし、理央くんは男の子だから……やっぱりおかしいことなのかな?」


何だか鍵を見ていると、やましい気持ちが出てくる気がしてそっと箱の中にしまう。




でも……悪い気分ではない。





誰かのことを、守りたいし、幸せにしてあげたいと思ったのは生きてきた中で、初めてだからだ。


こんな気持ちは絶対にやましいはずだというのは、わかってる。



でも……守りぬきたいという欲求は、そんなに悪いことなのだろうか。



ふとそんな考えが頭に浮かぶが、周りは理解してくれないだろうと蹴り出されてしまう。




「……なんだか、疲れちゃった……。もう夜近いし寝よう」




ベッドに潜り、スヤスヤと寝息を立てようと意識が遠のいたときだ。




ーー貴方は、それで本当にいいの?





僕の頭の中で、声が反芻した。



それは爽やかなる、天女が以前川辺で歌っていた歌声に近い。



地獄に天女なんて、いるはずがない。



恐れ慄いたのか、僕は身を翻すがごとく跳ね起きた。



「だれ……??」





真っ暗になった寝室を、睨む。



不気味な赤い月が、薄っすらと赤い光で部屋を照らすけれどどこにも人がいる気配を感じない。




ーー私は生き物ではないわ。探しても無駄よ。

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