とある蛇の話
「僕はお父さんと、お母さんのような存在になりたくないんだっ!!」
苦し紛れに僕は啖呵を切る。
だけどその言葉は、燃えるように突き進んで相手の心を撃ち抜くような威力は持っていなかった。
「あのね、誰かに迷惑をかけないような恋愛なんて一つも存在しないのよ?」
啖呵を切った直後、そう反論され言葉に詰まった。
迷惑をかける愛は一つも存在しない。
確かに誰かを愛することは、欠点をも愛おしいと思い包み込むという意味でもある。
「あなたのお母さんは、とっても苦しんでいたわ。禁断の恋をどう処理していいかって、毎日悩んで、苦しんで、藻掻いて、我慢してよくこの図書館に来てた」
手に出されていた、本を女性はゆっくり開く。
数々の星が銀河の如く流れだし、周りは淡いサファイアブルーに染まりだす。
大きな光の中心に、悩みに悩んでいたお母さんの姿が映し出された。
真っ白な大蛇の姿に、透き通るような赤い瞳を持っていることから相当若い頃だと、直ぐ様勘づく。
「でもね……「恋を封印する」って決意した瞬間にあの人は変わってしまったの。一時期ね。友達も暗い性格に変わってしまって、好きなこともできず面白くないって離れてしまったし、何より毎日夜ないて、とうとう仕事もろくにできずに転々とする毎日だったのを覚えてるわ」
苦しそうな顔をして、皆に変な噂を立てられて蔑まされるお母さんの姿が映る。
「……でもだからって、いいわけない。禁断の恋で人を傷つける事だってあるから、お母さんとお父さんが上手く言った理由も、運が良かっただけ……」
僕は宙に浮かぶ本を、そっと閉じる。
視界は暗転し、元の図書館に戻る。
「恋愛ってのは、やっぱり縁がなければ成就しない事ってあるんだよ……」
「何言ってるの。まだチャレンジもしてないじゃない!!」
「相手を傷つけたくないし、周りを巻き込みたくないの!!」
「でもね、この世の中には「禁断の恋」の中にも「奪わなければ始まらない恋」ってのもあるのよ………?貴方が、考えているしてはいけない禁断の恋って不倫とかその程度のちっぽけな遊びのことでしょ?それとこれと一緒にしちゃだめよ!!」
「フリンって………何なの?というか、奪わなければ始まらない恋って普通の恋とどう違うの?……分からない……僕分からないよ………」
「……あぁ!!もう、面倒くさいわねぇー!!さっきから、中途半端に変な単語ばかり知ってるくせに!!」
大粒の涙を滝のように流していた、僕にかがんでその女性は話した。