とある蛇の話
正直この恋心の事を言えば、どんな仕打ちが起こるのか怖かったというのもある。
だけど、その気持ちは少しだけしかないし……この家族を僕は放っておけないからこそ人間界に自分の意志で降りたんだ。
愛する人の人生を助けたいし、今まて蛇として使命を果たす行動に尽くしてきたけれど、生きる意味をそこで見出せなった。
だからこそ、この人間界に惹かれどんなリスクを負っても二人を守り抜いてやると誓った。
そんな気持ちを話すのは、野暮ったい気がして口から出かけては消えるのだ。
「でも……僕がいるのはやっぱり怖いんでしょ?」
本当は助けたい。
力になってあげたいのは、山々だ。
だけど包丁を持って、僕を追い出そうとするって事はそれくらい、僕の存在は異質で同等の価値ではないということ。
姿形をみられてしまった今、同じ同等な生き物ではないが故に、許されないことをしていると思い知らされた。
ここで僕は血迷って、「実はここで助けたら、もっと悲劇を生み出して二人を苦しめてしまうのではないか」と考えたんだ。
「じゃあ、今すぐ僕を殺してよ………」
真顔で刃物を構えている理央くんは、どんな事を考え、感じているのか想像もできない。
ゆっくりと一歩ずつ、僕の元へ歩み寄る理央くん。
あと一センチというぐらいまで近寄った。
「お兄ちゃん、やめてよ!!」
遥くんの声に反応するかのように、足取りを止める。
一瞬の静寂が、僕にとって命取り。
理央くんは刃先を、僕の首元に触れさせる。
「それ、本心で言ってんのか?」
「言ってるよ……僕がいることで、やっぱり君を苦しめるっていうのなら、僕は、殺されたほうがましだよ……でも、君が苦しむ可能性も嫌だけどね……」
理央くんは鼻で笑う。
首先に向けられた刃物が、大きく反対側に弧を描く。
僕は目を瞑る。
風が圧力を押し上げたのを、感じた瞬間僕は目を見開た。
「……できない……出来るわけねぇーだろ……っクソッ!!」
刃物は勢いを失って、フローリングに突き刺さる。
その刹那、僕は心の気が緩んでしまったのか足元から崩れ落ちて、へたり込む。
「お兄ちゃん……っ!!」
急いで駆け寄った、遥くんは思い切り泣きじゃくったような顔をしていた。
それは、日々を生きることに必死で、しがみつくようにお兄ちゃんを頼る姿なのだと考えたら言葉が出ない。
「お前、有馬って言ったな?」
理央くんは弟をあやしながら、僕に問う
。
「うん……そうだよ……」
「さっきのお前の様子だと、どんな理由が当たったとしても、天界の住人が俺たちが住んでいる場所に下りることは禁忌なんだろ?」
それは事実無根だった故に、僕は頷く。
理央くんはしゃがみ込んで、僕に手のひらを頭に乗せた。
「俺達家内を巻き込んだ罰として、暫くこの家に住んで弟や、家内の手伝いをやれ」
それは意外な言葉では合った。
僕には相当考えもつかない、衝撃で暫く理解できなかった。