とある蛇の話
「……どうして?僕の事……よく知らない人なのに……図々しいのに、そんな事が言えるの?」
遥くんは、理央くんを覗き込む。
少し俯いた理央くんが、寂しげに笑った。
「お前から……弟に対する怖さを感じないし……本気で何か俺たちを……助けようとしているってのを感じるからだな」
満面な笑みを浮かべ、理央くんから肩を優しく叩かれた。
その力は僕が想像していたよりも、力強く優しい力だ。
「さっきは、刃物を向けて悪かった……。二度とこんな事をしない。弟を守りたかっただけなんだ」
「お兄ちゃんはこんな事、普段しないから勘違いしないでください!!お願いします」
遥くんが頭を下げて、謝ってきた。
「いや、僕もいきなり来て悪かったと思う……。でも……2人に出来ることがあれば……この命尽きるまで、サポートしたいんだ!!」
頭を深く下げ、僕は土下座をした。
生まれてこのかた、心の底から謝罪して人の為に謝ったのは、はじめてだ。
でも……何処か嬉しい気持ちで一杯だった。
愛する人を幸せにする手伝いが出来るからだろうな。
「分かった!!分かったから!!もう今日はこの家に泊まれ。その代わり弟と今後仲良くするんだぞ!!」
「ありがとう……ありがとう!!」
僕はそんな言葉を発しながら、嗚咽が止まらなった。
いきなり初対面で、号泣する僕はとても変だろう。
だけど包丁を向けられたとき、僕はとてつもない恐怖に支配されていたのは事実だ。
好きな人に殺されてしまって、もう二度と理央くんという存在に出会うことがないと考えたら居ても立っても居られないぐらいに。
それに、それだけ自分が好きな人に、疑われ嫌われていることをしているという、罪を目の当たりにして怖かったから。
その罪の払拭ではないけれど、降りてきた以上彼らの事はちゃんと、幸せにしてあげたいという覚悟もできてはいた。
そうーーーその時は。
嬉し泣きをして、遥くんに支えられていた時だ。
ピンポーンとチャイムが鳴る。
「こんな時に、一体誰だ?」
怪訝な顔をして、理央くんが玄関前に立つ。
扉を開けると、そこに立っていたのはーーー。
「こんばんわー。兄ちゃん。ここで不審者見かけんかったかー?」
あのでっぷりとした、警察官だった。
僕はあまりの驚きで、驚嘆した。
「あっ!!ここにおったんか!!お前!!ちょっと署までこんかい!!」
直ぐ様正体がバレて、指差され危うい状況に。
すると、理央くんが中に割って入ってきた。
「おまわり!!ここは民事介入できない事情で断らせてもらう!!」
「兄ちゃん、その変わりもんはな、皆警戒しとるんやで?通報絶えんかったわ。どいてくれーな!!ええか!!」