とある蛇の話
「弟達……騒がしかったでしょ?特に理央なんて、まだまだ遥に構ってばかりで……私が多く稼ぐって決めて転職して今の仕事に就いたのに、「遥のためー」って親離れしそうにないから、困ってるのよねー」
「え……転職?」
「そうよ、転職。私ね警察官から、インフルエンサーになったの。顔出しはしない特殊なね。それで、一生後悔することのない、大金を稼いで入るけれど……なかなか家にいると皆昔の夫の事を、思い出して上手くいかないみたい。それで私達はすれ違ってばかりで……おかしいわよね。土曜日にはちゃんと家内で出かける日を作ってるのにみんなバラバラ」
泣きそうになっている、夏目さんの顔を見て僕は、見た目で判断して笑ったことを後悔した。
陽気そうで、強そうに見えても、内面は葛藤や、苦しさで一杯いっぱいなんだな………。
「ごめんなさい……こんな時期に、僕なんかが首を突っ込んで」
「ううん。いいのよ。これを機に家族が代われればいいなってちょうど思ってた所だし、あなたの言っている事が本当なのなら、私はこのチャンスを逃したくないの」
「あの……「この話」っていうのは、どこまで弟からきいてるの?」
「遥と理央と夫の過去を知っている、保護した蛇がやってきたということまで知ってるわ」
僕は差し出された、コーヒーカップを覗く。
黒く輝く、コーヒーの水面が揺らいで、僕の姿は歪む。
「怖くないの?」
「どうして?」
夏目さんは不思議そうに、コーヒーのミルクを注いでくれた。
僕の姿は見えず、ミルクティー色に染まったコーヒーを見ると、なんだか落ち着く。
「だって、普通は「僕は蛇の末裔だ」なんて言わないし、個人情報を隅々まで知っている初対面の人間は、恐怖対象でしょ?それに、小さな男の子に道を尋ねるっていう奇行もおかしいし………」
不意にコーヒーを持つ手が震えた。
それは、遥くんや理央くんが、もしそんな人に会ったら殺されて消え失せてしまうってことを想像してしまったのもある。
それ故に、同じ事をしている自分自身に対しても、憤りを感じたからこそ、許しがたかったからだ。
「確かに、勝手に近づいた事は正直私も怖かった。あなたに何か2人がされるんじゃないかってね」
ふと夏目さんが持っている、マグカップを横目に見る。
少しだけ、手が震えてたから、やはり怒っているに違いない。
僕は目を伏せて堪らず「ごめんなさい」と呟いた。
「でもね……もう私こんな窮屈な生活を終わらせたかったの」
「え?」
予想打にしない言葉が出てきて、動きかけた体が止まる。