とある蛇の話
「僕……さすがに、お迎えはちょっと……」
苦悶の表情で訴える遥くん。
すると夏目さんが、悲しい目を一瞬浮かべ、遥くんと向かい合う。
目線を同じぐらい落として、向き合うその仕草は何処か哀愁漂う。
「私が何も知らないとでも、思ってるわけ?」
「へ……?」
遥くんの腕をつかみ、絆創膏だらけの傷跡を見る。
「遥は……おとなしいタイプなはずなのに、どうして毎日傷だらけで帰ってくるわけ?昆虫採取にしては、傷を追いすぎてるわ。どうして?」
遥くんの顔がみるみる内に、影を落とす。
「……母さん、それくらいにーーー「理央は黙って!!」」
物凄い剣幕で、理央くんを叱りつけた。
理央くんは萎縮して、出しかけていた手を下ろす。
「言葉に出さないけど、母親ってのは勘付いてるのよ。意外にね。その証明として、有馬くんに一緒に帰ってきてもらうわ」
下を向いて、俯く遥くん。
「母さん、それは俺にも出来るし、前帰ってきたときはーー何も、なかったじゃないか」
「それは、相手が鋭いから立ち回りが上手いのよ。理央がいる時だけ、「いじめ」をしないのよ……」
「いじめ」という言葉をきいた瞬間に、肩身を震わせ数歩後ろに下がった遥くん。
その拒絶反応からして、相当エグいイジりをされていたのだろう。
理央には、心配かけまいと必死に取り繕っていたと考えると、胸が痛い。
「よし!!そうと決まれば、明日からよろしくね!!そんでもって、リビングで寝るんじゃなくて、理央と一緒に寝なさい」
「は……はぁ!?なんでこんな、奴といきなり一緒に寝なきゃいけないんだよ!!」
「理央くん……やっぱり僕のこと嫌い?」
「嫌いも何も、弟意外俺は一切深く干渉したくないタイプなんだよ!!ふざけんな!!お前は下で寝ろ!!」
「理央!!またそんな我儘言って!!母親直接命令よ!!今すぐ一緒に部屋を共にしなさい!!」
「だから、理由はなんでっ!!」
「私のプライベートスペースに要られるのは、疲れるからよ☆」
シリアスな内容だったにも関わらず、直ぐ様明るすぎるような陽気な声で、ウインクをした。
「プッ」
その様子をみていた、遥くんが吹き出した。
この家族を見て、僕はふと「夏目さんは遥くんの為に、わざと無茶振りを言って、笑わせていたのかな」と脳裏を掠める。
その様子をみた、理央くんは少し目を見開いて咳払い。
そしてため息をつく、理央くんをみたあと夏目さんは、慈しむように微笑む。
「ーー仕方ねぇーな……一週間だけ、寝かせてやるけど、お前は床で寝ろ」
「えーっ!!なんでっ!?一緒に寝ようよっ!!」
「何だ、お前!?この期に及んで、どんな神経してんだ!!離れろよっ!!気持ち悪い変質者め!!」
じゃれ合う僕達をみて、笑ってみせる夏目さんと遥くんの手は確かにしっかりと繋がれて離れる事はなかった。
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