愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

第三章 彼に会うために


電話の音で私は驚き目を覚ます。
ベッドの隣には誰もいない。
私は慌てて電話を取ると、バトラーがモーニングコールをしてくれていた。
タクシーは十一時に来ると教えてくれ、私は礼を言って電話を切った。

時計を見ると朝の八時。

「レン?」

ベッドから出てリビングに行く。
バスルームにもレンの姿は無く、私は広い部屋の真ん中で立ちすくむ。

全て夢だったんでは無いだろうか。
クローゼットを開けてみれば、昨日私がかけておいたスーツは無い。
しかし、レンの小物やまだいるであろう荷物は置いてあった。

リビングのテーブルに昨日の食器などは既に無いが、変わりに何かが置いてあるのに気付き近づく。
そこには手に乗るようなリボンのかかった小さな箱と、ホテルのメモ紙。
メモ紙には綺麗な日本語で文字が書かれていた。

そこには、必ず私を迎えに行くこと、気をつけて帰ること、そしてプレゼントとある。
そして一番下に書かれていた文字。

『蓮 Heinrich』

「蓮って漢字だったんだ。
苗字が、ハインリッヒ、かな。
言うのが遅すぎるでしょ」

苦笑いを浮かべながら、横にある箱を手に取った。
これは私へのプレゼントらしい。
サイズからしてCDでは無いようだ。
では何だろうとリボンを解いて箱を開けると、そこに入っていたのは昨日見たスワロフスキーのついた音符のブローチだった。

いつの間に買ったのだろう。
私はぼろぼろと涙が流れていることに気付きながら、そのブローチを見つめる。
見つめるのに涙でよく見えない。

「最後まで私に夢を見せてくれるなんて、本物の王子様みたいだったな」

箱を胸に抱き、私は涙を流しつつ笑った。

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