愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「まだ五社決まってないわよ?」
私は谷本さんの言葉に目を丸くする。
「決まるのに時間がかかっているんですか?」
「違う違う、まだ受付中ってこと」
思わず椅子から立ち上がり、谷本さんが驚いて私を見上げていた。
「まだ受付中ってことは、うちの会社もチャンスがあるんですよね?!」
思わず力が入ってしまう。
まだ申し込みを受け付けているなら、何とかその場に手伝いとして潜り込めないだろうか。
そうすれば、すぐ側でレンに会えるかもしれない!
「まぁまぁ篠崎さん落ち着いて」
手で座るように促され、私は恥ずかしさから申し訳ありませんと謝罪した。
そんな私を谷本さんは特に気にしていないようだった。
「チケットも取れなかったし、気持ちはわかるよ。
でもこれは仕事だし、そもそもうちのように音楽専門誌でもなければ、テレビとかの媒体でも無いなら勝ち目は無いから」
レンの言葉が蘇る。
興行主はボランティア活動をしている訳じゃ無い。
今回のコンサートもあんなに雑誌に出たりするところをみると、レンの容姿を前面に打ち出して人気を出したいのはわかる。
それならば、一番効率的なのはテレビだろう。
彼のあの長い足も、低くそれでいて安心させる声も放映できる。
確かに勝ち目なんて無い。
やはり運命なんて無いのだ。
「ちなみにね」
谷本さんが持参しているお味噌汁を飲みながら、
「どうしてインタビューしたいのか、そして当日の質問内容を紙一枚にまとめて事前提出するの。
それを審査して許可か不許可か連絡するって凄いわ。強気すぎ」
「レン、彼が審査するんですか?」
「どうかしら。
敏腕マネージャーがかなり厳しい人みたいで、そっちじゃないかって噂」
私は黙り込んだ。
もしも、もしもレンが見る可能性があるのならチャレンジしてみる価値はあるんじゃないだろうか。
きっと何もせずにいても、レンと再会することは出来ない。
会えなくてもせめて何か彼のために恩返しがしたい。
ならば。