愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
*********
翌日の土曜日。
私はレンが指定した東京都庁に近い高級ホテルにいた。
どうしても高級ホテルに行くにはワンピースでなければならないと、経験値の無い私はクローゼットから上品なロング丈のワンピースをチョイスした。
靴は先日買ったばかりの花のついたパンプス。
塔が三つ並んだような近代的なホテルに、私は道に迷いつつドキドキしながら入る。
ここは下の階はオフィスビル、高層階部分がホテルだ。
エレベーターに乗り込み高層階のホテルフロントで降りる。
一気に高くなる天井。
見上げればガラス張りの屋根のようになっていた。
目の前には本物の木がいくつも植えてあり、こんなビルの高層階だというのに緑と花で彩られていて私はびっくりしてしまう。
ちょうど夕食の時間帯もあってかレストランに行く客も多いらしく、それなりの人がロビーにはいた。
私は胸元にある音符のブローチ近くに手を当て、ここにいますとアピールするように周りを見渡す。
レンが来るのか、代理の人が来るのか。
でもこのブローチが必ず引き合わせてくれるはず。
「似合ってる、そのブローチ」
背後から突然かけられた声に振り返る。
そこにはサングラスを少しあげ、私を見下ろす青い目の男がいた。
「レ・・・・・・」
名前を呼ぼうとしたら、私の唇にレンの綺麗な人差し指が当てられ次の言葉を止められた。
恥ずかしさに上目遣いで睨むと、レンは当然のように私の手を握り進み出す。
「どこに行くの?」
小さい声で言っても横にいるレンの口の端は軽く上がるだけ。
確かにここで話すだけで注目されかねない。
私はレンが存在している実感を味わいたくて、繋いでいる手を少しだけ強く握った。