愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~


「どうぞ」
「あ、はい」

レンがドアをあけてくれ私は足を踏み入れる。
そこはマンションのエントランスのように広い。
進んでドアを開ければ、高級マンションのモデルルームのようなモノトーンのモダンなデザインのファニチャー。
あまりの広さに唖然としたがすぐ横にあるものに気付き、驚きのあまり指を指した。

「ピアノがある!!」

なんと部屋にグランドピアノがある。
ホテルの部屋にピアノなんて。
どんな人がここを使うのか。
この広さを考えると、ピアニストを呼んでパーティーをしたりするのだろう。
東京にこんな凄い部屋があることに呆然とした。

「あぁ、そうなんだ。
おかげで時間も気にせずに弾ける。
それにこのホテルは、コンサートをするホールにも近いしな」

声が後ろから聞こえて振り返る前に、背後から私を大きな身体が包み込む。
ワンピース越しに伝わる体温が気持ちを落ち着かせる。

「会いたかった」

低く、絞り出すような声に私の涙腺がまた緩む。
会いたかったとレンも思ってくれていた。
もう会えるはずは無いと思っていたのに。
声が出せず、私は私の身体を縛る両腕に手を乗せる。

「楓も会いたいと思っていたか?」

私が何も言わないことに痺れを切らしたのか、大きな手が私の頬を包んでゆっくりと動かされると、レンが私を覗き込んでいた。
深い青の世界に、涙ぐむ私の顔が映っている気がする。

「会いたいと思っていたのは俺だけか?」

寂しそうな声に私は首を振った。

「もう、会えないと思ってた」

喉が締め付けられ、声が震える。
夢は夢のままでいた方が良いに決まっている。
だけれど、もっとその夢の続きが見たいと欲張っていた。

< 45 / 88 >

この作品をシェア

pagetop