愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「どうぞ」
「あ、はい」
レンがドアをあけてくれ私は足を踏み入れる。
そこはマンションのエントランスのように広い。
進んでドアを開ければ、高級マンションのモデルルームのようなモノトーンのモダンなデザインのファニチャー。
あまりの広さに唖然としたがすぐ横にあるものに気付き、驚きのあまり指を指した。
「ピアノがある!!」
なんと部屋にグランドピアノがある。
ホテルの部屋にピアノなんて。
どんな人がここを使うのか。
この広さを考えると、ピアニストを呼んでパーティーをしたりするのだろう。
東京にこんな凄い部屋があることに呆然とした。
「あぁ、そうなんだ。
おかげで時間も気にせずに弾ける。
それにこのホテルは、コンサートをするホールにも近いしな」
声が後ろから聞こえて振り返る前に、背後から私を大きな身体が包み込む。
ワンピース越しに伝わる体温が気持ちを落ち着かせる。
「会いたかった」
低く、絞り出すような声に私の涙腺がまた緩む。
会いたかったとレンも思ってくれていた。
もう会えるはずは無いと思っていたのに。
声が出せず、私は私の身体を縛る両腕に手を乗せる。
「楓も会いたいと思っていたか?」
私が何も言わないことに痺れを切らしたのか、大きな手が私の頬を包んでゆっくりと動かされると、レンが私を覗き込んでいた。
深い青の世界に、涙ぐむ私の顔が映っている気がする。
「会いたいと思っていたのは俺だけか?」
寂しそうな声に私は首を振った。
「もう、会えないと思ってた」
喉が締め付けられ、声が震える。
夢は夢のままでいた方が良いに決まっている。
だけれど、もっとその夢の続きが見たいと欲張っていた。