愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

「言っただろう?必ず迎えに行く、と」
「だけど」
「これも忘れたか?
再会できたら運命と思って諦めろってのも」

少しだけ面白がるように私を見つめる人。
優しげで低く甘い声は、私にただ涙を流させる。

指が私の涙を拭い、そのまま顎を軽く掴まれ上げられた。

「俺に捕まったんだ、諦めろ」

青い瞳が細まって、レンからの想いが自分に降り注ぐような気がする。
彼の奏でる音に、私はあのウィーンでとっくに全て捕まってしまっていたのに。

「愛している」

低く呟くような声がして、私の唇はレンの唇で塞がれた。

リズムを刻むように何度も繰り返されるキス。
彼の背中に手を伸ばし、シャツ越しでもレンの体温はとても熱い。
続くキスは、心地よさからまるで媚薬を盛られているかのようにぼーっとしていく。
ずるりと膝の力が抜け自分がびっくりするより先に、レンがしっかりと抱きしめてくれた。

「そんなに気持ちよかったか?」

悪戯な顔に私はムッとする。
気持ちよかったかなんて、聞かなくても分かっているくせに。

レンは私を軽々抱き上げると歩き出し、入った部屋はキングサイズのベッドが一つ。
そこに優しく下ろされた。

「明日、予定は?」

レンが私に覆い被さり、尋ねてくる。
ギシッとベッドが揺れ、音を立てた。

「なにも、ない」
「なら、俺が楓の全てを独占しても良いか?」

私は意味を分かって頷いた。
欲情した男の顔を向けられ、私の身体はぞくぞくと震える。
初めて見る、レンのオスの顔。
こんな地味な私に、レンほどの男性が劣情を抱いてくれていることが信じられない。

「こんな風に俺をさせるのは楓のせいだ」

また見抜かれた。
私は口を尖らせて手を伸ばし、レンの唇をなぞった。

「寂しかった分を埋めてね」
「あぁ」

レンが我慢しきれないというようにキスをしてきて、それはどんどん深くなる。
気が付けば私とレンの間に何も邪魔するものは無い。
レンの熱い体温が伝わる。
私の名前を何度も求めるように呼び、私は短い言葉しか出せない。
レンの指はピアノのを弾くかのように、ただ私に声を上げさせ続けた。


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