愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
「ところで打ち合わせって来月のコンサート?」
「それもある」
レンが私を膝から下ろし立ち上がる。
私の手を引っ張ってリビングの窓側にある三人掛けでも余裕のようなソファーに座り、私を横に座らせた。
「楓はコンサートのこと知ってたんだな」
「うん。友達の友達から情報が来て」
なんだそれはという顔をレンがするので説明し、チケットは残念ながら取れなかったことを伝えた。
「席は楓の分だけだが用意してある」
「いいの?!」
「二日間用意しているから、大丈夫なら二日間来て欲しいが」
「行きます!
だってチケット取れなくて、もうレンのピアノは聴けないって悲しくて」
「でもさっき聴いたな」
「そう、言えば」
レンの突っ込みに私が納得するとまたレンは笑った。
「忙しいね、コンサートの準備にインタビューとかもあるんだろうし」
「ん?」
「あ、いや、だから、普通来日したらテレビとかでインタビューとかやるでしょ?
レンがそういうの絶対避けられるはず無いと思って」
「あぁ、その通りだ」
ついインタビューの事を口走り、レンに不思議そうに返された。
焦ってそれっぽい理由を言うと納得してくれた。
「今回のコンサートはオーケストラとの共演。
オケ自体仕事が減っていると言うことで、何か目玉をと考えた上で俺にオファーしてきた。
そもそもそのオケを一時期指揮していた人物が俺の教わっていた人と交流があったらしく、その流れで俺に話が来たんだ。
実際の決め手は違う理由だったんだが」
「つてがないと仕事を受けないの?」
「そういう訳じゃ無いがその場合が多いな。
知り合いの紹介というのは保険代わりの面もあるし、厳しい世界、持ちつ持たれつみたいな面もある。
俺の場合は相手の顔を立てた形になるが、ちょうど日本に来るのに便利だと考えた」
ニヤリと笑うレンに、私は苦笑いする。
レンは一人で冷蔵庫に向かい、お茶のペットボトルを二本持ってきた。
やはり開けてくれてそれを渡してくれる。
私はお礼を言って口をつけた。
「そういえば疑問だったんだけど、レンって日本で公演したこと無いの?
日本に帰ってきたことくらいはあるんでしょ?
そんなにネイティブなんだし」
レンはペットボトルをテーブルに置く。
「そうだな、どっから話すか。
俺が産まれたのは日本だ。
母が医療面で日本の方が良いとドイツに住んでいたが里帰りした。
他の理由では妊娠中、向こうの食事が合わなくて辛かったらしい。
結局小学校に上がるくらいまで、俺は日本に住んでいたんだよ」
「一時期は日本にいたなんて。
そもそもレンのご両親も音楽家なの?」
「父親がピアニストで今はドイツにある音楽学校の教師をしている。
日本に仕事で来ていた時に一目惚れした母と結婚し、ドイツに二人で戻った。
ただ母親が日本を恋しがるから、今も母は年に二回は日本に戻っているよ。
俺もある程度までは付き合って戻っていたが、仕事が忙しくなってからは年に一度くらいか」