愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~
レンが日本で生まれていたり、数年間はここにいたことなど初めて知ることばかりだ。
お母さんのご両親、レンからすれば祖父母と話すのなら日本語もネイティブになるだろう。
「年に一度ってことはお正月?」
「いや違う。
日本だと秋から冬はそれなりにコンサートシーズンだ。
夏は夏でイベントもある。
その合間ってところだな」
確かに日本だと梅雨にコンサートはあまり聞かない。
間違いなく音の響きは湿度で違ってきそうだ。
「そっか。
レンの家族とかそういうの初めて知れて嬉しい」
「コンサートの時には母と祖父母も来るから紹介しよう」
さらりと言われた言葉にえ!と声を出した。
「あぁ、先に楓のご両親に挨拶すべきだな。日程を」
「待って待って!」
スマホを持ってこようとソファーから立ち上がろうとしたレンを引き留める。
「挨拶って?」
「結婚するならしておくほうがいいだろう?」
結婚。
レンの握っていた服を放す。
あれ、私達ってどこまでの関係なのだろう。
会えてうれしくて、一緒にずっといたいと願う気持ちに嘘はない。
再就職してまだ数ヶ月。
だけどレンは海外で仕事をしている。
ということは、私は?
「楓?」
呆然としていた私に、レンが心配そうな表情で覗き込む。
思わず目をそらしてしまった。
好き、それだけの気持ちで動くにはハードルが高い。
正直、レンとまた再会し、その上それ以上を求められるなんて思ってはいなかった。
現実になったら良いのにとはもちろん何度も思ったのに、本当の現実は考えていなかった。
「レン、あの」
どう伝えよう。
言葉を探しているとゆっくり髪を撫でられた。
「構わない。
本当に俺が迎えに行くなんて信じてはいなかったんだよな。
でも俺は楓と結婚したいと思っている」
青い瞳はとても強い光を灯して私を見つめる。
「だが楓は日本に住んでいて、俺は海外を飛び回る。
普通はそれにパートナーがついて回ることは無い」
「そう、なの?」
「もの凄く有名で全米ツアーでもする大物なら何ヶ月も行くだろうから同行することもあるだろう。
だが通常は出張が多いだけのようなものだ。
ドイツが便利だから拠点を置いているが、楓が日本にいたいなら俺も日本に来てそこから他に仕事へ行けば良いだけの話だ」
あっさりと言われ、私は言葉を失った。
私が再会を信じていないその間、レンは私との今後をとても考えていた、それが伝わってくる。