愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~

「それは、レンが困るんじゃ」
「成田からドイツまでは直行便が出てる。
家を空けることも多いことを考えれば、楓が過ごしやすい環境の方が良いだろう?」

そこまで考えていただなんて。
でも言われても頭は真っ白だ。
私のことばかりでレンに何も得なんて無い。
そこまでしてもらう価値が自分にあるとはとても思えない。

頬を大きな手が包んで顔を上げられた。
おそらく今の私は、かなり動揺した顔をしていると思う。
私を見ているレンが寂しそうに見えるのはそのせいだ。

「まだ俺は日本にいる。
その間出来るだけ会えないだろうか。
二人で色々と話すことで、きっと楓が抱く不安もわかるだろうから」

綺麗な長い指が私の頬を優しく安心させるように撫でている。
レンは私のことばかり心配していて、それに対してどれだけ自分は不甲斐ないのだろう。

「まだレンに再会できただけでも夢のようなの」
「あぁ」
「正直、現実感が無くて先の話も考えられない」

私は俯かずにしっかりとレンを見る。

「ちゃんと考えるからもう少しだけ時間を下さい。
ただ、レンを好きだって事は忘れないで」

私をレンがぎゅっと抱きしめる。
爽やかな香りが私を包んで、私もその背中に手を回した。

「わかっている。
ゆっくり話し合おう」

レンは安心させるような声で言い、私に軽いキスをした。
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