愛を奏でるワルツ~ピアニストは運命の相手を手放さない~


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「あの質問内容から楓だろうと思っていた」

新宿のホテル、レンの部屋にあのインタビューの翌日に呼び出された。
ソファーで何故かレンの膝の上に座らされ、私は身体を縮めていた。
腰にがっちりと手が回り、とても逃げられる状況では無いし逃げた後が怖い。

「ごめんなさい」
「何についての謝罪だ?」
「インタビュアーのこと、黙っていたことです」
「そうだな。
だが立場上、話すわけにもいかなかっただろう。
それはわかってる」

レンの答えにホッとしたのもつかのま、しかし、とレンは続ける。

「せっかく日本にいるのに、楓と会えなかった俺がどんな気持ちでいたと?」

のぞき見るように私を見るレンに驚いた。
もしかして寂しかったとか?
だけどそれは私も同じ。
レンの仕事を邪魔してはいけないと我慢していたのに。

「私だって会いたかったよ!
だけどレンは仕事で来ているんだし」
「確かにそうだが、楓に会えるなら無理矢理にでも時間を作る。
俺は楓が仕事を始めたばかりというから我慢したんだぞ。
日本では会社に入社したばかりだと、権利を主張するのは嫌がられると聞いていたからな」

見事なまでの指摘と配慮。
レンも私を気遣ってくれていたとわかると、申し訳ないと同時に嬉しい。
私の頭を撫でながら、レンはため息をついた。

「お互いを思い合ってるからこそのすれ違いだな。
やはりどんな時でも会話は必要だと痛感した」

ため息は私に呆れたからかとビクッとしていたのだが、レンを見ると仕方が無いというように私を見ていた。
真っ直ぐに気持ちを伝え、どうしていこうかレンは考えてくれている。
愛しい気持ちが溢れて、私はレンの背中に手を回しぎゅっと抱きしめた。
レンは片手で私を抱きしめ、片手であやすように私の髪を撫でる。
いつも美しいピアノを奏でる大きな手は、私を安心させてくれた。

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