君にかける魔法
「逃げてごめんね……いつか伝えるから……待っててね、明日良くなりますように…」

私は音を立てないように、そっとドアを開け、帰った。



家に着くと、自分の部屋のゴミ箱を真っ先に確認した。
中にあるのは、"チケット"。
その1枚を取り出し、シワになっている部分を元に戻す。

頑張って…

願うことしか出来ない。
勝手かもしれない。

私は4月のことを思い出した。




「最後はチアダンス部の紹介です…」

パチパチパチ…

部活動紹介。
1年生以外は見なくても良いのだけど、少しナツキやクルミと話すようになったから応援の意味で見に来ていた。

「ナツキちゃんもクルミちゃんも、カッコイイ!」
「すごいね」

踊り終わったあとのキラキラした目のナツキの姿。
未だに覚えていた。



「私たちは絶対全国大会に出場します。去年はあと一歩で行けませんでした。今年は絶対出場します。」

後ろにいる部員の方を振り返る。

「絶対、みんなで行こう。」


前に向き直す。


「そして、今見てくれた新入生のみなさんも、ぜひ仲間になりませんか?」




ナツキだけの夢じゃない。

もちろん部員のみんな、

辞めなければならなかったクルミ、

応援してくれる全ての人々、


お願いします。


明日だけでも、


ナツキを舞台に立たせてください。



< 93 / 154 >

この作品をシェア

pagetop