【改訂版】貴方は悪役令嬢ですよね? ─彼女が微笑んだら─
何故か、前世の自分の名前は思い出せない。
わかっているのは、自分は成年済みで、空いてる時間はこのゲームに入れ込んでいたことだけ。
あたしがどうして、乙女ゲームの世界に入ってしまったのかも知らない。
前世では死んだのか、それとも肉体は日本にあって意識だけがこちらに来たのか。


けどねっ、ややこしい事はどうでもいいの!
その日までのあたしは、単なるブリジット・ビグローだった。
少し頭のいい平民の女の子。
お父さんは結構羽振りのいい商会を経営していて、教会に多額の寄付をしていた。
まあ、多額って言っても、平民の割には、って額だけどね。
それで、ちょこちょこと教会に頼んで、貴族しか通えない学院に編入試験を受けさせて貰った、という。

お父さん的には、出来の良いあたしが学院に通って、貴族令嬢と友人になって取引をさせて貰えたらな、ぐらいだったと、思うよ。

それで無事に試験に合格して。
この制服が届けられて、試着で初めて袖を通した時に、頭の中にゲームのオープニング曲が流れてきて、次々に場面が通りすぎていった。
いきなりの音と色彩と光の洪水に追い付けなくて、吐きそうになった。

そしたら、記憶の底に眠っていた見慣れたイケメン達がそれぞれ私に微笑みながら、手を差し出して……
「おかえりなさい」って、皆から言って貰えた気がして。
懐かしさに涙が出ちゃった。

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