魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

勇敢な少年


「シャルロッテ、まだ動けたのかッ」

 するとベビ男は、その人形をきつくにらみつけた。

(シャルロッテって、あの人形の名前?)

 みれば、その人形は、手に針を持っていた。

 どうやら、さっき転んだ拍子に、一緒になげとばされたらしい。廊下のスミには俺が持ってきた裁縫セットが転がっていて、中にあった針がなくなっていた。

 たぶん、あの針で、ヘビ男の手を刺したんだ!

「早く逃げなさい。ここにいたら、本当に連れていかれてしまうわよ」

 すると、俺の前に立った人形が、ヘビ男を睨みつけたまま、そう言った。

「あぁ、わかったぞ、シャルロッテ! その姿ということは、もう魔力が残っていないのだろう。そんな小さな針一本で、どう戦うつもりだ!」

 すると、そこにまた男の高笑いが響いた。確かに、こんなに小さな体で、あんな大きな男に勝てるはずがない。それは俺でもわかった。

 でも、その人形は

「バカにしないで。たとえ勝機がなくとも、私は最後まで、アラン様を守りぬくわ」

 その姿は、すごくかっこよかった。
 見た目は可愛いお人形なのに――

「ありがとう」
「え?」
「私の体を治してくれて。おかげで、もうしばらく戦えそうだわ」

 そういって笑った人形は、その小さな体で、ヘビ男に向かっていった。

 俺は、その光景を見ながら、どうするべきか考える。

 逃げるなら今しかない。
 でも──
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