魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

ダメじゃない


 そう言ってニッコリと笑ったアランに、俺は冷や汗をかいた。

 それは完全に悪役のセリフだった。

 いつだったか、ドラマの中で『姿を見られたからには、生かしちゃおけねぇ!』と言ったボスのセリフが映像付きで蘇った。

(あれ? なんか、やばい?)

 このまま返せないって、どういうこと?
 つまり──

「怖がらなくていいよ。痛くも痒くもないし、一瞬で終わるから!」

 あぁ、やっぱ、ヤバいやつだ!
 一瞬で終わるって、なにが!?
 命が!? 

『時の神よ、我が血の盟約(めいやく)のもと、その命に(したが)え──』

 すると、どこからか分厚い本を取り出したアランは、呪文みたいなものを唱え始めた。

 俺の下には、いきなり赤い光と複雑な文字が刻まれた魔法陣が現れて、明らかにヤバイ雰囲気が漂っていた。

『赤の書・第──』
 
 だけど、それを唱え終わる前に、アランは突然黙り込んだ。

 冷や汗とバクバクと早まる心臓の音を聞きながら、俺はまたアランを見つめる。

 すると、アランは足元に落ちた、ぬいぐるを見つめていた。

 まっしろで、耳が長くて赤い目をした、うさぎのぬいぐるみ。
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