魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

(なにやってんだろ。人形が話すはずないのに)

 ふと我に返って、冷たい風が吹き抜ける。

 なに、やってんだろう。
 おれは、深くため息をつくと

「ありがとうって言われて、嬉しかったんだけどな」

 今まで、ずっと隠してきた。可愛いものが好きなことも、裁縫が好きなことも。

 だけど、その隠してきた裁縫が、昨日初めて、誰かに役にたった。

『ありがとう、シャルロッテと、カールを治してくれて』

 そういって笑ってくれたアランの言葉が、すごくすごく嬉しかった。
 それなのに──

「あぁぁぁ、全部夢とかああぁぁ、ないだろうぉぉぉ!」

「うるさい!!」

 するとそこに、また妹の夕菜が入ってきた。

「もう、お兄ちゃん朝からうるさすぎ! 早く準備しなきゃ遅刻するよ!」

 いつもと変わらない、夕菜のうるさい声。
 俺は、それを聞いて

「あー……やっぱり夢かぁ」

「なにいってんの? 寝ぼけてないで早く起きてよ!」

 いつもとかわらない朝。
 
 そのあまりにも変わらない一日の始まりに、俺は一人むなしく学校に向かった

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