魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

 なんとなくだけど、お人形遊びのお人形は、この二人の事を言っていて、こいつらは、アランから二人を引きはがしたいのだと思った。

「嫌だよ」

 だけど、アランはハッキリとそういって、辺りがシンと静まり返る。

「僕は、可愛いものが大好きだ。人形もぬいぐるみも、アクセサリーだって好きだし、可愛いものを作るのも、集めるのも大好き。……だから、カールとシャルロッテのことも、絶対に手放したりしない。自分の好きなものを、素直に好きだと言って何が悪いの?」

 その言葉に、不意に胸が熱くなった。

 なんで、そんなに、はっきり言えるんだろう。
 なんで、そんなに、迷いなく答えられるんだろう。

 なんで、俺と同じ、可愛いものが好きな男の子なのに、アランは、こんなにカッコいいんだろう。

「ハヤトくん」
「!?」

 すると、突然カールさんが、俺の腕を掴んだ。

「少し離れるよ」
「え? なんで」
「巻き込まれたら、大変だからね」
「へ?」

 そう言って、俺を抱き上げたカールさんは、シャルロッテさんと一緒に、少し離れた場所に移動する。

 すると、それから暫くして、アランが深くため息をついた。

「はぁ~。君たちも、お父様も、ほんと頭が固いなぁ……どうして、人の趣味にいちいち口を出すのかな? きっと、働きすぎなんだね」

「はい?」

「うちのお父様、人使い荒いみたいだしね。あ、そうだ。せっかくだから、君たちにはリフレッシュ休暇をあげよう♪」

「「リ、リフレッシュ休暇!?」」

 魔族たちが、すっとんきょうな声を上げた。

 あれ? リフレッシュ休暇ってなんだっけ?
 あ、確かに、働いてる人の夏休みみたいなもんだって、お父さんが言ってた!

 ていうか、魔界にもリフレッシュ休暇とかあるの?

「あ、アラン様! 一体何を考えて!?」

「何ってら君たちには、僕から素敵な旅行をプレゼントしてあげる。だから、ゆっくり休んで、少しは柔軟な頭になってきてよ」

 そういうと、アランが、また本に手をかざし、呪文を唱えた。

「冥界の王よ、我が血と盟約もと、その命にしたがえ――黒の書、第48番・冥界列車(ダーク・トレイン)!」

 グアァァァァァァァァァァッァァ!!!!!

 その呪文と共に、今度は黒い魔法陣が現れた。そして、その真っ黒な魔法陣出てきたのは、先頭にドクロの顔を張り付けた立派な蒸気機関車。

 そしてそれさ、汽笛の音と一緒に、雄たけびを上げると、その瞬間、大きな口が開かれる。

「「うわああああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

「怖がらなくても大丈夫だよ。見た目はおっかないけど、中はホテルのスイートルームみたいになってるから。じゃぁ、リフレッシュ休暇中の一ヶ月間、みんなで、冥界の旅を楽しんできてね~」

 いってらしゃーい♡――と可愛らしく手を振る横で、ドクロが幹部たちを飲み込んだ。

 ゴックンと音がして、腹の中、というか汽車の中におさまると、その列車は、またまた汽笛の音を響かせて、さっきの魔法陣の中に消えていく。

 そう――六人の魔族たちを、飲み込んだまま。

(こ、怖えぇ……)

 そして、俺は思った。魔界の王子って、めちゃくちゃ、おっかねぇなって。
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