魔界の王子様は、可愛いものがお好き!

「さっきは、助けてくれてありがとう。おかげで助かった」

「うんん。僕の方こそ、昨日はありがとう。君がいなかったら、シャルロッテとカールがどうなっていたか」

 アランが、悲しそうに言った。

 あの二人を、とても大事な人形だって言っていたし、もしかしたら、アランも、俺と同じ悩みを抱えているのかもしれない。

 可愛いものが好きなのに、それを理解して貰えない、そんな悲しくて、どうしようもない悩み。

「あ、そうだ。まだ、ちゃんと自己紹介してなかったね。僕は、魔界の王、ヴォルフ・ヴィクトールの息子で、第一王子にして、第13代目の王位継承者、アラン・ヴィクトールです」

「え? あ、えっと……おれは、威世 和彦の息子で、桜川小学校に通う、5年2組、威世 颯斗です!」

 つられて、それっぽいこと言ってみたけど、王子相手だと、全く張り合えない!

「君も、可愛いものが好きなんだよね」
「え? あ、うん」
「ふーん……でも、その割には、全く可愛いものないんだね、この部屋」
「え!?」

 一瞬、ドクンと心臓がはねた。

 確かに、俺の部屋に、可愛いものはほとんどない。普通の男の子の、普通の部屋。

「も、もしかして、可愛いものがあると思って、うちに来たのか!?」

「うーん、そういうわけじゃないけど、あまりにも何も無さすぎて逆に違和感が」

 まぁ、そうだよな。
 疑いたくなるよな!こうも、何もないと!

「か、家族には内緒にしてるから」

「内緒?なんで?」

「だって、心配するだろ。男なのに、可愛いものが好きだったら!」

 その言葉に、ふと幼稚園の時を思い出した。

 子供の頃は、普通に好きなものを好きだと言っていたし、妹と一緒に着せ替え人形で遊んだり、ビーズでネックレスを作って、お母さんにプレゼントもしていた。

 だけど、年長さんの時、みんなで何色のランドセルを買うかって話になった時

『俺、赤いランドセルにするんだ!』

 ただ単に、自分の好きな色のランドセルを言っただけだった。

 だけど──

『えー、赤は女の子が使う色だよ!』

『颯斗くん、女の子のランドセルがいいの?』

『変なの~!』
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